ロシア語講座:初級

Б03:ロシア人と知り合う

初対面のロシア人にどういう言葉を発するか、状況次第で大きく変わってくる。これは初対面の日本人にどういう言葉を発するかを考えてみればわかるだろう。早い話が、紹介してくれる人がいるか否か、堅苦しい挨拶をすべきかくだけた言い方でいいか、など、一様ではない。極端な話、ただ自分の名前を名乗って手を差し出せばそれでおしまい、ということもあり得るわけだ。
 たとえば次のような状況を考えてみよう。
 あなたは大学生だ。ロシアに留学した。キャンパスを歩いていて、あるいは食堂で食事をとっていて、あるいは一服していて、ロシア人に声をかけられた。たとえば、「タバコ一本くれよ」かもしれない。タバコをくれてやり、火も貸してやった。ついでに、軽い雑談もしたとする。どうやら相手も、同じ大学の学生らしい。結構話が弾んで、たとえば「おれモスクワに来たばっかなんだよね」、「どうモスクワは?」、「いや、思ったよりいい街だ。ただ空気がね……」みたいな会話もした。自分がユーゴザーパドに住んでいることも話したりした。
 とはいえ、これだけではまだ赤の他人である。こんなことが何回も、何十回もあったとしても、赤の他人のままである。偶然何かの機会に互いの名前を知り合ったとしても。ロシア人は、互いに自ら名乗りあって握手を交わし(いや、握手は交わさなくてもいいが)、「よろしく」と言い合う、という儀式を済まさないと、知人、ましてや友人とは認識してくれない。
 さてそこで、知り合いになる儀式の手順が問題である。
 この例のように大学生同士(あるいはそれ以下の年代)であれば、何の問題もない。自分の名前を名乗りながら手を出せば、そしてそれに対して相手のロシア人も同様に自分の名前を名乗りながら手を握ってくれば、それでおしまいである。ただし日本人の名前は、ロシア人の耳には人名に響かないので、「おれは……」とか「おれの名前は……」と入れた方が親切だろう。
 それ以上の年代だと、自己紹介する際の決まり文句を加えた方が無難だろう。

紹介・自己紹介

Дава́йте познако́мимся. /дава́йте пазнако́мимся/
 自己紹介する際の決まり文句。この後に、自分の名乗りが続く。
Познако́мьтесь. /пазнако́мьтесь/
 こちらは、人を紹介する際の決まり文句。この後に、「こちらはAさんです」などと続く。もっとも、ロシア語を学びはじめたばかりのわたしたちが使う機会はまずあるまいが。
Э́то ***, а э́то ***. /э́та/
 э́то というのは、「これ」という意味である。この後に人名を続ければ、「こちらはAさんです」という文になる。たとえば、«Э́то Ямада.» と言えば、「こちらは山田です」となる。日本語には「さん付け」と「呼び捨て」という区別があるが、ロシア語にはない。それよりもかなり複雑な法則があり、理解し慣れてしまえばどうということはないが、とりあえずは英語の Mr. に相当する господи́н /гаспади́н/ という言葉を使っておけば無難だろう。女性であれば госпожа́ /гаспажа́/。ただしこの言葉は、基本的に外国人にしか用いない。よって、たとえば次のようになる。«Э́то господи́н Ямада, а э́то Ива́н Петро́вич.» 「こちらは山田さんです。こちらはイヴァン・ペトローヴィチです」。この辺りの文法的な話はいずれやることになるので、ここではとりあえず丸暗記しておこう。

名前の聞き方・名乗り方

Ка́к ва́с зову́т? /ка́к ва́з заву́т/
 一般的な名前の聞き方。
 ただし一言注意しておくと、これは厳密には「あなたは何と呼ばれていますか?」である。姓名を聞いているわけではなく、呼び名、あるいは呼び方を尋ねているのだ。さらに言うと、「あなたを何とお呼びしたらいいですか?」に相当する、と言ってしまってもいいだろう。
Меня́ зову́т ***. /миня́ заву́т .../
 一般的な名前の名乗り方。
 ただし «Ка́к ва́с зову́т?» が呼び名を聞く文であることに対応して、こちらは呼び名を答える言い方。厳密には「わたしはこう呼ばれています」であり、「こう呼んでください」にも通じる意味合いを持つ。ゆえに、*** の部分に入るのはフルネームではない。日本人は «Меня зовут Таро Ямада.» などのようにフルネームを言ってしまうが、これはおかしい。たとえばロシア文学とかで確認してみて欲しい。登場人物は、必ずしもフルネームがわかっているわけではない。姓だけ、ならともかく、姓すらわからない登場人物が珍しくない。ロシアでは、日常生活においてフルネーム(特に姓)は不要なのである。あなたのフルネームなど、相手のロシア人にとってはどうでもいい情報なのだ。大事なのは、あなたをどう呼んだらいいか、である。
 ということで、もし「山田」と呼んで欲しければ «Меня зовут Ямада.»、「太郎」と呼んで欲しければ «Меня зовут Таро.»、「山田さん」と呼んで欲しければ «Меня зовут Ямада-сан.» などと答えること。
 わたし自身、仕事上の相手なら «Меня зовут Ямада-сан.» と自己紹介していた。こうすると相手は、わたしのことを «Ямада-сан» と呼んでくれる。他方、相手が仕事外で知り合った同年輩なら «Меня зовут Таро.»。こうすると相手は、わたしのことを «Таро» と呼んでくれる。このように、相手によって使い分けるのが正しい。
 逆もまた真なり。もしあなたが相手のロシア人のフルネームをたまたま知っていたとしても、そんな情報はすぐさま忘れてしまうこと。大事なのは、相手が «Меня́ зову́т ***.» と言った際に、*** でどう名乗っているか、である。たとえば Ива́н Петро́вич Фёдоров というロシア人と知り合ったとしよう。あるいはもらった名刺にそう書いてあるかもしれない。しかしそんな情報はどうでもいいのだ。相手がもし «Меня́ зову́т Ива́н.» と名乗ったとしたら、あなたはかれを «Ива́н» と呼ぶべきなのである。«Меня́ зову́т Ива́н Петро́вич.» と名乗ったとしたら、«Ива́н Петро́вич» と呼ばなければならない。

 とはいえ、相手の正確な姓名を聞く、自分の正確な姓名を言う必要も出てくるかもしれない。ロシアでも、事務手続きなどではフルネームが必要になってくる。その場合の聞き方、言い方を次に紹介しておこう。
 ロシア人の名前については、別途ページをつくっているので、そちらを参照のこと。

 まず имя(名)の聞き方・言い方。

Ка́к ва́ше и́мя?
Моё и́мя ***.

 次に отчество(父称)の聞き方・言い方。日本人には отчество はないが、ロシア人、特に目上と付き合う際には必須である。

Ка́к ва́ше о́тчество? /о́ччиства/
Моё о́тчество ***.

 なお、万が一ロシア人から «Как ваше отчество?» などと聞かれたら、とりあえず «У меня́ не́т.» と答えておこう。

 最後に фамилия(姓)の聞き方・言い方。上述のように、ロシア人の姓を知っている必要はない。

Ка́к ва́ша фами́лия?
Моя́ фами́лия ***.

よろしく

 「よろしく」と言っても、これはあくまでも初対面の際に発せられる「よろしく」。「はじめまして」の意。
 日本語では、「はじめまして、山田です」という順番が可能だが、ロシア語ではおかしい。名乗った後で「はじめまして」。

О́чень прия́тно. /о́чинь прия́тна/
 「とても嬉しい」。「何が」が省略されているが、事実上「はじめまして」とか「どうぞよろしく」とか言う場面以外では使われない。名前を名乗った後で言う。あるいはここで紹介する3通りの言い方の中で、最も一般的に使われているかもしれない。
Ра́д с ва́ми познако́миться. /ра́т с ва́ми пазнако́мицца/
 文字通り「お知り合いになれて嬉しく思います」。どちらかと言うと、少々堅苦しい感じ。年配の人や、ビジネスの場で使うフレーズだろうか。少なくとも若者が使うとおちゃらけた印象を受ける。
 ここで注意すべきは、これは«男性言葉»だということだ。別に、ロシア語に«男性言葉»、«女性言葉» の区別があるわけではない。フランス語やドイツ語など、英語以外のヨーロッパ系言語をご存知の方には説明するまでもないが、ロシア語でも、主語が男性か女性かによって形容詞述語の形が変わってくる。詳しくは追って説明することになるが、とりあえず「そういうこともあるんだ」ということは押さえておいてもらいたい。
 いずれにせよ、この言い方は男性のみが使える。女性が使ったらおかしなことになるので注意。女性の場合は、冒頭が Ра́да /rádə/ となる(«Рада с вами познакомиться.»)。この区別は間違えてはならない。女性が «Ра́д с ва́ми познако́миться.» と言ってしまったら「こいつは女装趣味のある男か」と思われてしまう。
 なお、上の例と同様、文頭に Очень をつけても構わない。
Ра́д ва́с ви́деть.
 直訳すると「あなたを見て(あなたに会って)嬉しい」。英語の "Glad to see you."。「はじめまして、よろしく」だけではない。とにかく人と会った際には無差別に使用可能。
 問題は、ここでも男性が言う場合と女性が言う場合で文頭の Ра́д の形が異なる、という点である。
 冒頭に О́чень をつけてもいい。この言葉は「とても」という意味だから、「会えて嬉しい」という気持ちを強調する表現になる。

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最終更新日 28 02 2015

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