ロシアの世界遺産

社団法人日本ユネスコ協会連盟の公式サイトによれば、ロシア連邦にある世界遺産は以下の通り。日本語表記・順番は同サイトのリストに従う。

登録年名称所属地域
11990サンクト・ペテルブルグ歴史地区と関連建造物群サンクト・ペテルブルグ市
レニングラード州
21990キジ島の木造教会カレリア共和国
31990モスクワのクレムリンと赤の広場モスクワ市
41992ノヴゴロトの文化財とその周辺地区ノーヴゴロド州
51992ソロヴェツキー諸島の文化と歴史遺産群アルハンゲリスク州
61992ウラジーミルとスーズダリの白い建造物群ヴラディーミル州
71993セルギエフ・ポサドのトロイツェ・セルギー大修道院の建造物群モスクワ州
81994コローメンスコエの昇天教会モスクワ市
91995コミ原生林コミ共和国
101996バイカル湖イルクーツク州
ブリャーティア共和国
111996カムチャツカ火山群カムチャートカ地方
121998アルタイのゴールデン・マウンテンアルタイ共和国
131999西コーカサス山脈
142000カザン・クレムリンの歴史遺産群と建築物群タタルスターン共和国
152000フェラポントフ修道院群ヴォーログダ州
162001中央シホテ・アリン沿海地方
172003デルベントのシタデル、古代都市、要塞建築物群ダゲスターン共和国
182004ランゲル島保護区の自然生態系チュクチ自治管区
192004ノヴォデヴィチ女子修道院群モスクワ市
202005ヤロスラヴル市街の歴史地区ヤロスラーヴリ州
212000クルシュー砂州カリーニングラード州
(リトアニアと共同)
222003ウヴス・ヌール盆地トィヴァ共和国
(モンゴルと共同)
232005シュトゥルーヴェの三角点アーチ観測地点群(ほか9ヶ国と共同)

サンクト・ペテルブルグ歴史地区と関連建造物群(文化遺産)

Historic Centre of Saint Petersburg and Related Groups of Monuments
Centre historique de Saint-Pétersbourg et ensembles monumentaux annexes
Исторический центр Санкт-Петербурга, пригороды и фортификационные сооружения

 無数のアイテムから成る。面倒なので、主なもののみ列挙。

キジ島の木造教会(文化遺産)

Kizhi Pogost
Kizhi Pogost
Архитектурный ансанбль Кижского погоста

 キージはカレリヤ共和国のオネーガ湖に浮かぶ島。ロシア語ではない(カレリア語)ので、キージ、キジーどちらのアクセントも可。一般的には «キジー» のようだが、地元では «キージ» らしい。
 «屋外博物館» に指定されており、その中心となる «キーシュスキイ・ポゴースト(キージ村落)» が世界遺産に登録されている。これは木造建築による正教教会群で、もともとこの島に建てられた主の変容教会 Церковь Преображения Господня や庇護教会 Покровская церковь のほかに、聖ラザロ復活教会 Церковь Воскресения Лазаря などカレリヤ各地から移築されたものから成る。
 ちなみに、ロシアはもともと釘を用いない木造建築(特に教会は)。石造建築はピョートル大帝の近代化以降がメインである。
 なお、キージ島はかつてはブィリーナの宝庫であり、5代にわたり語り手を輩出したリャビーニン家もここの農民だった。

モスクワのクレムリンと赤の広場(文化遺産)

Kremlin and Red Square, Moscow
Le Kremlin et la place Rouge, Moscou
Московский Кремль и Красная площадь

 ロシア語でクレムリンとは «城塞» の意味の普通名詞。よって、モスクワ周辺の古都にはどこにでもクレムリンがある。

ノヴゴロトの文化財とその周辺地区(文化遺産)

Historic Monuments of Novgorod and Surroundings
Monuments historiques de Novgorod et de ses environs
Исторический центр Великого Новгорода и памятники окрестностей

 ノーヴゴロド(現在は公式にはヴェリーキイ・ノーヴゴロド)は、モスクワの北西に位置するロシアの古都。年代記の記述が正しければ、ロシア(民族的ロシア)最古の都市。ノーヴゴロド州の州都。
 歴史的中心部はデティーネツ детинец(=クレムリン)と呼ばれる。ほかの都市のクレムリン同様城壁に囲まれ、その中心にそびえるのが聖ソフィヤ大聖堂 Собор святой Софии。言うまでもなく、この名はコンスタンティノープル(現イスタンブール)のハギア・ソフィア大聖堂(アヤ・ソフィア)に倣ったもの(ゆえに «神の叡智» を意味する)。現存するロシア最古の建造物とも言われる。
 ヴォルホフ河をはさんでデティーネツの対岸にも、多数の教会が建ち並ぶ。

ソロヴェツキー諸島の文化と歴史遺産群(文化遺産)

Cultural and Historic Ensemble of the Solovetsky Islands
Ensemble historique, culturel et naturel des îles Solovetsky
Культурный и исторический ансамбль "Соловецкие острова"

 ソロフキー諸島は白海に浮かぶ、大小6つの島から成る(«ソロヴェーツキイ» はソロフキーの形容詞形)。
 15世紀前半、修道院が建設され、以後ソロフキーの名は修道院と同義となった。
 ソ連時代には、修道院はソ連最初の強制収容所に転用された。しかし米ソの冷戦が激化する中、戦略的重要性から収容所は閉鎖され、北洋艦隊の基地も置かれた。その後自然保護区に指定され、正教会に返還されて、現在は再び修道院が活動を行っている。
 世界遺産に登録されているのは、自然保護区に属する修道院の建造物群。

ウラジーミルとスーズダリの白い建造物群(文化遺産)

White Monuments of Vladimir and Suzdal
Monuments de Vladimir et de Souzdal
Белокаменные памятники Владимира и Суздаля, а также церковь Бориса и Глеба в Кидекше

 ヴラディーミルとスーズダリは、ともにモスクワ北東部に位置するロシアの古都。«ゾロトーエ・コリツォー(黄金の輪)» と呼ばれる、モスクワ周辺の古都群に属す。ヴラディーミルはヴラディーミル州の州都。
 ヴラディーミルの聖母昇天大聖堂 Успенский собор とドミートリエフスキイ大聖堂 Дмитриевский собор、スーズダリの、クレムリンを筆頭とする歴史的建設物(主に修道院と教会)、そしてキデクシャの聖ボリース・聖グレープ教会が、世界遺産に登録されている。

セルギエフ・ポサドのトロイツェ・セルギー大修道院の建造物群(文化遺産)

Architectural Ensemble of the Trinity Sergius Lavra in Sergiev Posad
Ensemble architectural de la laure de la Trinité-Saint-Serge à Serguiev Posad
Архитектурный ансамбль Троице-Сергиевой лавры

 モスクワ北東の集落セールギエフ・ポサード(ザゴールスク)にある三位一体セールギイ大修道院は、セールギイ・ラードネシュスキイによって開かれ、モスクワ・全ロシア総主教が修道院長を務める、ロシア正教会で最も権威のある修道院。ロシア革命後に復活した総主教は長い間この修道院に住んでいた(1988年になってモスクワのダニーロフスキイ修道院に移った)。
 ちなみに、歴代のツァーリ・皇帝はモスクワのクレムリン(ウスペンスキイ大聖堂)かサンクト・ペテルブルグのペトロパーヴロフスキイ大聖堂に埋葬されているが、ボリース・ゴドゥノーフだけはここに葬られている。

コローメンスコエの昇天教会(文化遺産)

Church of the Ascension, Kolomenskoye
Église de l'Ascension à Kolomenskoye
Церковь Вознесения в Коломенском

 コローメンスコエは現在、モスクワ市の一部を成す地区。モスクワの南部にあたる。
 主の昇天教会 Церковь Вознесения はここに残る最古の建造物で、最初期の教会建築を伝えるもの。頭にタマネギ(クーポラ、ロシア語ではクーポル купол)がない。
 なお、コローメンスコエにはほかにも近隣から移築された古い建造物が数多く存在する。

コミ原生林(自然遺産)

Virgin Komi Forests
Forêts vierges de Komi
Девственные леса Коми

 コミ共和国にある、32,600 km² に及ぶ、ヨーロッパ最大の手つかずの原生林。自然保護区と国立公園に指定されている。

バイカル湖(自然遺産)

Lake Baikal
Lac Baïkal
Озеро Байкал

 世界最深の湖。そのため、表面積は世界最大ではないが(淡水湖としても世界2位)、貯水量は世界最大で、世界の淡水の20%がここにあると言われる。さらに透明度も世界最高。世界で最も古い古代湖でもある。

カムチャツカ火山群(自然遺産)

Volcanoes of Kamchatka
Volcans du Kamchatka
Вулканы Камчатки

 カムチャートカ半島の火山群。複数の自然保護区・自然公園に指定されている。

アルタイのゴールデン・マウンテン(自然遺産)

Golden Mountains of Altai
Montagnes dorées de l'Altaï
Алтайские горы

 アルタイ山脈はロシアから中国、モンゴルにまたがるが、世界遺産に登録されているのはロシア領に属する地域。一部が自然保護区に指定されている。
 ちなみに英語では «ゴールデン・マウンテン» などと言っているが、ロシア語にはそのような言い方はなく、無味乾燥に «アルタイ山脈»。

西コーカサス山脈(自然遺産)

Western Caucasus
Caucase de l'Ouest
Западный Кавказ

 西カフカーズというのは世界遺産としての登録名で、一般には使用されない。
 大カフカーズ山脈のうち、北麓(ロシア連邦領)の西部を指す。この地域はソ連時代から自然保護区や国立公園に指定され、その景観や野生生物の保護が推進されてきた。

カザン・クレムリンの歴史遺産群と建築物群(文化遺産)

Historic and Architectural Complex of the Kazan Kremlin
Ensemble historique et architectural du Kremlin de Kazan
Историческо-архитектурный комплекс "Казанский кремль"

 カザニはかつてのカザン・ハーン国の首都であり、現タタルスターン共和国の首都。16世紀にイヴァン雷帝によってカザン・ハーン国が併合され、クレムリンが建てられた。
 ほかのクレムリン同様城壁に囲まれた中に多数の教会・大聖堂といくつかの宮殿が立ち並ぶ。中心となるのが、最古の受胎告知大聖堂 Благовещенский собор、ハーンの宮廷があった地に建てられたと言われる大統領宮殿(旧知事公邸)、ヨーロッパ最大のモスクであるクル=シャーリフ・モスク。

フェラポントフ修道院群(文化遺産)

Ensemble of the Ferrapontov Monastery
Ensemble du monastère de Ferapontov
Ансамбль Ферапонтова монастыря

 ヴォーログダ州にある修道院。ロシア中世建築の典型と言われるらしい。

中央シホテ・アリン(自然遺産)

Central Sikhote-Alin
Sikhote-Aline central
Горный хребет Сихотэ-Алинь

 シホテ=アリニ山脈はハバーロフスク地方から沿海地方にかけて伸びる山脈。その中央部に広がる森林地帯が世界遺産に登録されている。絶滅危惧種のアムールトラの生息地である。

デルベントのシタデル、古代都市、要塞建築物群(文化遺産)

Citadel, Ancient City and Fortress Buildings of Derbent
Citadelle, vieille ville et forteresse de Derbent
Цитадель, старый город и крепостные сооружения Дербента

 以前から不思議に思っていたのだが、«シタデル» というカタカナ言葉は日本語になっているのだろうか。固有名詞でもあるまいし、カタカナで訳しても無意味だと思うのだが。ちなみに「城塞」といったような意味。
 デルベントはロシア連邦最南端の都市。カフカーズの北と南を結ぶ地政学的な位置から、考古学的には5,000年以上に及ぶ歴史を誇り、都市(集落)の歴史自体も紀元前8世紀に遡るとされる。
 特に6世紀以降発展し、一時はハールーン・アッ=ラシードも居住。何度か独立国家を営んだこともあるが、基本的には南のペルシャ、さらに南西のアラブ、北から侵略する遊牧民族に支配された。1813年、ロシア領。
 デルベント自身が本来城壁に囲まれた要塞都市だが、ナルィン城塞 Крепость Нарын はデルベントとカスピ海を見下ろす天然の要塞である。

ランゲル島保護区の自然生態系(自然遺産)

Natural System of Wrangel Island Reserve
Système naturel de la Réserve de l'île Wrangel
Остров Врангеля

 ヴランゲリ島は、北極海に浮かぶ島。

ノヴォデヴィチ女子修道院群(文化遺産)

Ensemble of the Novodevichy Convent
Ensemble du Couvent Novodievitchi
Ансамбль Новодевичьего монастыря

 ノヴォデーヴィチイ修道院はモスクワ市の西部に位置し、かつては要塞として西からの敵に対する防衛拠点の役割も果たした。ポーランドからスモレンスクを奪回した記念に建造されたため、中心にそびえるのはスモレンスキイ大聖堂 Смоленский собор。
 モスクワで最も著名な女子修道院であり、皇族などとも関係が深い。
 19世紀末に造営された付属墓地には、帝政末期からソ連時代にかけて著名な人物が多数葬られている。ゴーゴリ、トゥルゲーネフ、チェーホフ、スタニスラーフスキイ、エイゼンシュテイン、ショスタコーヴィチ、フルシチョーフ、リヒテル、エリツィン……。地図が売られている(はず)ので、それを片手に散策するも一興。

ヤロスラヴル市街の歴史地区(文化遺産)

Historical Centre of the City of Yaroslavl
Centre historique de la ville de Yaroslavl
Исторический центр города Ярославль

 ヤロスラーヴリはヴォルガ河畔に位置するヤロスラーヴリ州の州都。11世紀以来の古都である。«ゾロトーエ・コリツォー(黄金の輪)» と呼ばれる、モスクワ周辺の古都群のひとつ。
 救世主修道院 Спасский монастырь にある救世主変容大聖堂 Спасо-Преображенский собор が代表的な建物だろう。1612年、ミーニンとポジャールスキイ公の第二次国民軍がモスクワ解放に向け出発したのは、まさにこの修道院からだった。
 ほかに神現教会 Церковь Богоявления、預言者エリヤ教会 Церковь Ильи Пророка など、教会建築を中心に古くからの建造物が多数残る。

クルシュー砂州(文化遺産)

Curonian Spit
Isthme de Courlande
Куршская коса

 ロシアとリトアニアにまたがる世界遺産。全体が、ロシアとリトアニアそれぞれの国立公園に指定されている。
 カリーニングラード州(ロシア)からリトアニアのクライペダに向けて伸びるこの細長い砂州は、バルト海とクルシュー潟とを隔てている。クライペダとは接していないので、対岸への狭い「海峡」をカーフェリーが横断している。
 最も細いところで 400m(ロシア領レースノエ村付近)だが、太いところでは 3,800m(リトアニア領ニダ村付近)に達し、9つの集落が砂州沿いに存在している。なお、«砂州» とは言うが、そのほとんどは森林に覆われている。
 砂州自体は自然の産物だが、その伝統文化的景観が評価されて文化遺産として登録された。

ウヴス・ヌール盆地(自然遺産)

Uvs Nuur Basin
Bassin d'Ubs Nuur
Бассейн Убсу-Нура

 ウブス・ヌールはモンゴル最大の湖。ただし沿岸の一部がロシア連邦(トィヴァ共和国)に属する。一帯の盆地は、ロシア、モンゴル双方の自然保護区に指定され、これらが世界遺産として登録されている。数多くの固有種や絶滅危惧種の生息地となっている。

シュトゥルーヴェの三角点アーチ観測地点群(文化遺産)

Struve Geodetic Arc
Arc géodésique de Struve
Геодезическая дуга Струве

 ドイツ出身のロシアの天文学者ストルーヴェが、地球の正確な大きさと形を計測するために、19世紀前半にロシア帝国とスウェーデン王国の各地に設置した三角測量点群。
 北極海から黒海までをほぼ直線で結ぶライン上に設置され、このうち34地点が世界遺産に登録された。
 現在、ロシア帝国とスウェーデン王国(当時の)が解体した結果、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシア、エストニア、ラトヴィア、リトアニア、ベラルーシ、ウクライナ、モルドヴァの計10ヶ国にまたがっている。
 ロシアでは、以下の2拠点が世界遺産。

ミャキピャリュスゴークラント(ホグランド)島(フィンランド湾奥)
Z点ゴークラント(ホグランド)島(フィンランド湾奥)

無形遺産

無形遺産(無形文化遺産)とは、フォークロア、口承伝統などの無形文化を保護するため、ユネスコが2001年から3回にわたって認定した90の文化財・伝統芸能・生活空間(2009年9月現在)。
 ロシアでは以下の2件が認定されている。これまた社団法人日本ユネスコ協会連盟の公式サイトの日本語訳による。

名称
第1回(2001)セメイスキの文化的空間と口承文化ブリャーティヤ共和国
チタ州
第3回(2005)ヤクートの英雄叙事詩、オロンホサハ共和国

セメイスキの文化的空間と口承文化

 セメイスキイ(単数。複数はセメイスキエ)は、ザバイカーリエ(バイカル湖東部)に住むロシア人の一派。かつてラスコーリニキと呼ばれた古儀式派 старообрядцы で、18世紀に、ベラルーシの故郷からザバイカーリエに強制移住させられた。かれらは先住のロシア人や先住民から «セメイスキエ» と呼ばれ、ブリャーティヤやチタ州に広がっていった。その後帝政政府、ソ連政府の弾圧にも屈せず、独自の信仰、生活習慣を守り抜いている。

ヤクートの英雄叙事詩、オロンホ

 オロンホとは、ヤクート人(サハ)の固有の英雄叙事詩。個々の叙事詩を指すと同時に、叙事詩文化総体を指す言葉でもある。

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最終更新日 17 01 2013

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