以前、どこかの暇人が「ヴィクトリア女王にはイギリス人の血が256分の1しか流れていない」などということを計算した、なんてことをどこかで読んだことがある(ちなみに残りはほとんどドイツ人。またこの場合の «イギリス人» とはスコットランド人のことで、イングランド人の血はさらにさかのぼって11代前の2024分の1。もっと言うと、これは実はウェイルズ人の血で、生粋のイングランド人の血はさらにさかのぼらないとならない)。
それにならって、わたしも計算してみた。最後の皇帝ニコライ2世には、果たして何分の何だけロシア人の血が流れているのだろうか。
以下、スタイルシートで家系図を示す。環境次第では(正確に)表示されない。悪しからず。(正確に)表示されない場合はこちらの画像を。
ピンク色が女性。右端はそれぞれの肩書き、あるいは実家。
こうして見ると、ニコライ2世に流れるロシア人の血は、5世代前の皇帝ピョートル3世と女帝エカテリーナ2世から来た32分の2しかないということになる。残りはすべてドイツ人だ(デンマーク王とかイギリス王女とか、しょせんドイツ人である)。
だが、だまされてはいけない。エカテリーナ2世自身は確かにロシア女帝だったが、彼女の両親はドイツ人である。4人の祖父母も8人の曽祖父母も、全員ドイツ人である。
ピョートル3世もロシア皇帝になっているが、その父方には4代前にさかのぼってもドイツ人しかいない(それ以前もほぼ同様)。母方にしても、母方の祖父こそピョートル大帝で、かれは生粋のロシア人(わかる限りでは外国の血はまじっていない)だが、母方の祖母はエカテリーナ1世である。エカテリーナ1世はリヴォニア出身で、いまで言うラトヴィア人かエストニア人か、あるいはドイツ系か、いずれにせよロシア系ではない。
つまりは、ピョートル3世にもロシア人の血は4分の1しか流れていないのだ。
結局のところ、ニコライ2世に流れるロシア人の血は、7代さかのぼったピョートル大帝から受け継いだ、128分の1、ということになる。ヴィクトリア女王よりはまだマシだ、とはいえ、皇太子アレクセイはやはり256分の1である。同じようなものだ。
ちなみに、最後のオーストリア皇帝カール1世の場合はどうだろう。
こちらは非常に単純である。両親ともに、ほぼ生粋のドイツ人だったからである。ほんのわずかにフランス人(ブルボン家)とポルトガル人の血が混じる程度だ。
このように、19世紀末、20世紀初頭のヴィクトリア女王(あるいはその子のエドワード7世でもいい)、ニコライ2世、カール1世(あるいは大伯父のフランツ・ヨーゼフでもいい)と、いずれもほぼ生粋のドイツ人であった。
これに対して、フランス革命で処刑されたルイ16世はどうだったろうか。多少時代が異なるので無批判に比較するのも考えものだが、いちおう参考までに。
大雑把に言って、4分の1がポーランド人(祖母のひとりがほぼ生粋のポーランド人だった)、4分の1強がドイツ人、8分の1がフランス人、そして残りがその他(イベリア、イタリア、イギリス、スラヴ)、という感じになる。ブルボン家は近親結婚が比較的多く、ハプスブルク家などのドイツ系の家系とも婚姻関係を結んでいるので、10世代も遡ると同じ人間があちこちに顔を出す。
なお、ルイ・フィリップも似たようなものである(ポーランド人の血はなくなるが)。