イーミャの語源:男性

日付は名の日。
 最後に載せたのは俚諺。多くは単なる言葉遊びで、まじめに意味を考えても無駄。口に出して発音してみなければ始まらない。

アナトーリイ Анато́лий
ローマ人の男性名アナトリウス Anatolius から。語源は古代ギリシャ語の anatole(東方、日の出)。アナトリア半島という地名はこれに由来する。
 フランスの作家にアナトール・フランス Anatole France というのがいたが、それ以外にはヨーロッパでほとんどお目にかかることのないイーミャである。ロシアでは、ルナチャールスキイ、カールポフなど、このイーミャの持ち主は多数いる。
 女性形アナトーリヤ Анато́лия は稀。
 愛称形は多数あるが、トーリャ То́ля、トーシャ То́ся 辺りがポピュラーだろうか。
 5/6, 7/16, 7/19, 8/6, 9/10, 10/11, 12/3。
アルカーディイ Арка́дий
古代ギリシャ人の男性名アルカディオス Arkadios から。語源は古代ギリシャ語の Arkadia。アルカディア地方の出身者、ということだが、それがイーミャになったというのは、アルカディア出身者にはよほどの特徴でもあったのだろうか。ちなみに、わたしの知る限り、ほかに地名がイーミャになった例としてはローマのハドリアヌス Hadrianus とフランスのガストン Gaston (ガスコーニュ人から来たと言われているが、実際には語源不明)ぐらい。
 いずれにせよ、ロシア語以外では現実的にお目にかかることのないイーミャである。もっとも、ロシア語でも決してポピュラーとは言えないが。
 女性形はアルカーディヤ Арка́дия。
 愛称形は、アルカーディユシュカ Арка́дьюшка、アルカーシャ Арка́ша、アーリャ А́ря、カーデャ Ка́дя、カーニャ Ка́ня、アーデャ А́дя。
 2/8, 2/23, 3/19, 5/29, 7/24, 8/27, 10/1, 12/26。
アルセーニイ Арсе́ний
古代ギリシャ人の男性名アルセニオス Arsenios から。語源は古代ギリシャ語の arsen(男らしい)。
 言うまでもなくアルセーヌ・リュパンのアルセーヌ Arsène。もっとも、おそらくロシア語以外ではまず見られないイーミャだろう。
 愛称形は、アルセーニユシュカ Арсе́ньюшка、アルセーニャ Арсе́ня、セーニャ Се́ня、アールシャ А́рся、アールサ А́рса、アルシュータ Арсю́та、アルシューシャ Арсю́ша、シューシャ Сю́ша、アーシャ А́ся。
 2/1, 2/28, 3/15, 5/12, 5/21, 6/25, 7/25, 9/6, 9/10, 9/12, 11/10, 12/26。
 「Видно, Арсенья ждать до воскресенья. きっとアルセーニイを日曜まで待たなきゃならない」
アルテョーム Артё́м
語源は古代ギリシャ語の artemes(健康な)。と、ロシア語の名前辞典では一様に説明されているが、英語などの名前辞典では古代ギリシャの女神アルテミス Artemis が語源とされている。常識的に考えて、異教の神の名がキリスト教化された後のロシアでイーミャとして使われるとは思えないのだが(聖者のイーミャででもない限り)。いずれにせよ、ロシア以外ではまずお目にかかることのないイーミャであろう。
 元来正式な形はアルテーミイ Арте́мий であり、アルテョームはそれが崩れた形。しかしおそらく現在ではアルテョームの方が一般的ではないだろうか。
 女性形もないではないが、おそらく使われない。
 愛称形は、アルテーミユシュカ Арте́мьюшка、アールテャ А́ртя、アルテューニャ Артю́ня、テューニャ Тю́ня、アルテューハ Артю́ха、アルテューシャ Артю́ша、テューシャ Тю́ша、アルテョームカ Артё́мка、アルテョームチク Артё́мчик、テョーマ Тё́ма、アルテョーシャ Артё́ша。
 1/17, 2/26, 4/6, 5/12, 7/6, 11/2, 11/12, 11/13。
アルトゥール Арту́р
イギリス人の男性名アーサー Arthur から。語源は諸説あり、ケルト語 artos(熊)とするのが一般的なようだが、同じくケルト語 art(石)とされたり、ローマの氏族名アルトリウス Artorius だとされたりもする。
 言うまでもなくアーサー王伝説により有名だが、もともとアーサー王伝説はアングロ=サクソンに追われたブリトン人が(主に)フランスで伝承していたもの。そのため英語から、と言うよりは、フランス語から諸言語に広まった(歴史上最初にこのイーミャを名乗ったのはフランス貴族のブルターニュ公)。逆輸入したイギリスでは、15世紀頃から使用例が現れる。
 ロシアには19世紀に輸入されたようだが、使っていたのは帰化人ばかり。ロシア人の間で使用されるようになったのは、ソ連時代になってからと言うべきか。もっとも、ちゃんと名の日があるところを見ると、イーミャそのものはかなり早い時期にロシアに入っていたのだろう。
 愛称形はアルトゥールカ Арту́рка、アールテャ А́ртя、アーテャ А́тя、アルテューシャ Артю́ша、トゥーラ Ту́ра。
 4/13。
アレクサーンドル Алекса́ндр
古代ギリシャ人の男性名アレクサンドロス Alexandros から。語源は古代ギリシャ語の alexein + andros から。それぞれ、アレクセーイとアンドレーイを参照のこと。意味は «人の守護者»。
 マケドニア王アレクサンドロス3世で有名だが、ロシア人にとってはアレクサーンドル・ネーフスキイをも連想させる。言わば国民的英雄であるアレクサーンドル・ネーフスキイに加えて、アレクサーンドルはまた国民的詩人プーシュキンのイーミャでもある。帝政時代・ソ連時代を通じて «最高の軍人» 扱いされたスヴォーロフもまたしかり。かれらにあやかってアレクサーンドルと名付けられたロシア人は数限りない。
 女性形アレクサーンドラ Алекса́ндра も非常にポピュラーである。
 愛称形はアレクサーンドル、アレクサーンドラ共通で多数あるが、最もポピュラーなのはサーシャ Са́ша だろう。『こねこ』ではサーニャ Са́ня が使われていた。また、サニュータ Саню́та、サニューハ Саню́ха、シューラ Шу́ра、アレクサーンドルシュカ Алекса́ндрушка 等々。
 そう言えば、バラク・オバマの下の娘がサーシャ Sasha と呼ばれている。本名はナターシャ Natasha。ナターシャというのはこれまたロシア語で、ナターリヤの愛称形。当然オバマ家にも妻の家系にもロシアの血は流れていない。ナターシャの愛称形がサーシャになる、というのもおかしな話だが、いずれにせよサーシャ(およびナターシャ)というのがアメリカでは独立した女性のイーミャとして使われている、ということだ。同じくアメリカのフィギュア・スケーターにサーシャ・コーエンという女性がいた。もっともこちらは、もともとウクライナ出身のユダヤ人の子で(コーエン、コーン、カーンはユダヤ人の姓)、本名はアレクサンドラ。
 1/17, 2/7, 3/8, 3/26, 3/28, 3/29, 4/9, 4/23, 4/30, 5/3, 5/4, 5/26, 5/27, 5/29, 6/2, 6/5, 6/8, 6/11, 6/22, 6/23, 7/16, 7/22, 7/23, 8/7, 8/11, 8/14, 8/24, 8/25, 9/3, 9/12, 10/5, 10/11, 10/14, 11/4, 11/12, 11/22, 12/6, 12/7, 12/25。
 「Сашка, позови Машку; Машка, подай платок, ― а платок подле боку. アレクサーンドル、マリーヤを呼べ。マリーヤ、プラトークをよこせ。わき腹のところのプラトークを」
アレクセーイ Алексе́й
古代ギリシャ人の男性名アレクシオス Alexios から。語源は古代ギリシャ語の alexein(護る)。
 これもロシア語以外ではあまり見かけないイーミャだと思う(現代英語のアレックス Alex というのは、通常アレクサンダーの略称)。ロシア帝国最後の皇太子をときどき «アレクシス» とか書いている本を見かけるが、アレクシスはフランス語(経由の英語)。
 ロシア正教会の総主教はアレクセーイではなくアレクシーイ Алекси́й というが、これは古形。いまでは聖職者だけがこの古形を使っている。
 ロシア人にとっては、ブィリーナ(英雄叙事詩)の登場人物アリョーシャ・ポポーヴィチが思い起こされるだろう。また特に信仰深い人は、«神の人» と呼ばれた聖者アレクシオスを連想するかもしれない。
 女性形はない。
 愛称形として一般的なのは、アリョーシャ Алё́ша。ほかにアレクセーイカ Алексе́йка、リョーカ Лё́ка、リョーハ Лё́ха、リョーシャ Лё́ша、アーリャ А́ля、レークシャ Ле́кся など多数ある。
 2/25, 3/30, 5/7, 6/2, 6/23, 8/22, 10/11, 10/18, 12/6。
 「Алёха ― не подвоха, сдуру прям.」
 「Алёша, подвяжи калоши!」
 「Алексей, выверни оглобли из саней!」
アンドレーイ Андре́й
古代ギリシャ人の男性名アンドレアス Andreas から。語源は古代ギリシャ語の andros(人 aner の単数属格)。«男性的な» といったような意味だろうか。
 最初のローマ司教は使徒ペテロだとされているが、ビザンティン帝国においては最初のコンスタンティノープル主教は使徒アンデレだとされていた。使徒アンデレは使徒ペテロの兄弟で、ともに最初にイエスの弟子となっているので、ロシアでは Андре́й Первозва́нный(«最初に使徒となったアンドレーイ» といったようなところか)と呼ばれて特に崇拝されている。特に、クリミア方面に布教したとの伝説から、ロシアの地に福音をもたらした人物として、ロシアという国の守護聖人となった。そのため非常にポピュラーだ。最近でもタルコーフスキイやサーハロフなどの著名人がいる。
 女性形はない。
 愛称形としてはアンドレーイカ Андре́йка、アンドリューシャ Андрю́ша、アーンドリャ А́ндря などがある。
 1/27, 5/31, 6/5, 6/11, 6/15, 7/3, 7/13, 7/17, 7/22, 7/25, 8/17, 9/1, 9/19, 9/23, 10/4, 10/6, 10/15, 10/23, 10/30, 11/9, 12/11, 12/13, 12/15。
 「У нашего Андрюшки нет ни полушки.」
 「Наш Андрей никому не злодей.」
 「Андрей-воробей, не летай на реку, не клюй песку, не тупи носку: пригодится носок на овсяной колосок.」
アントーン Анто́н
ローマの氏族名アントニウス Antonius から。語源はエトルリア起源とも言われているようだが、よくわかっていない。
 現代英語でアントニー Anthony と「h」を入れるのは、ルネサンスの時代にギリシャ語 anthos(花)と関連づけられた影響(ほんとは全然関係ない)。
 ロシアでは、ルビンシュテインやチェーホフが知られている。アントーニイ Анто́ний という古形だと、聖職者のイーミャである。
 女性形はアントーニヤ Анто́ния やアントニーナ Антони́на (アントニーナの方が一般的)。
 愛称形はトーニャ То́ня とかアントーシャ Анто́ша とか、比較的耳にするように思う。ほかにもトーシャ То́ша, То́ся、アントーハ Анто́ха などがある。
 1/12, 1/21, 1/30, 2/18, 2/23, 2/25, 3/10, 3/14, 4/27, 5/1, 5/17, 6/20, 7/6, 7/7, 7/23, 7/26, 8/13, 8/16, 8/22, 10/7, 10/11, 10/23, 10/30, 11/8, 11/22, 12/14, 12/20, (アントーニヤ:1/10)。
 「Наш Антон не горюет о том. うちのアントーンはそれを嘆かない」
イヴァーン Ива́н
古代ユダヤ人の男性名ヨハナン Johanan から。語源は古代ヘブライ語の Jo-(ヤハウェ)+ hannah(Анна 参照)。これが古代ギリシャ語に翻訳されて Ioannes になり、古スラヴ語で Иоа́нн となり、現代ロシア語でイヴァーンとなった、というわけだ。よって、イヴァーン雷帝などはときどき Иоанн Грозный と表記されていたりする。
 言うまでもなく、英語のジョン John、フランス語のジャン Jean、ドイツ語のヨハン Johann、イタリア語のジョヴァンニ Giovanni、スペイン語のフアン Juan、ポルトガル語のジュアン João、スコットランド語のイアン Ian、アイルランド語のショーン Sean……(疲れた)。おそらくヨーロッパでもっともポピュラーな男性名だろう。
 同じくロシアでも最もポピュラーな、つまりはありふれたイーミャ。トゥルゲーネフだのブーニンだの、このイーミャを持つ有名人をわざわざ挙げるのがバカらしくなる。ちなみにロシアで最も多い姓はイヴァノーフだと言われる。
 さらにちなみに、歴史上の人物を例えば英語で表記する場合、ミハイールはマイクル、アンドレーイはアンドルーなどと «翻訳» するのが欧米では一般的だが、イヴァーンだけはジョンだとかヨハンだとかとは訳さない。そのため、イヴァーン雷帝は英語でもジョン・ザ・テリブル John the Terrible ではなくアイヴァン・ザ・テリブル Ivan the Terrible である(アイヴァンはイヴァンの英語読み)。それどころか、時々子供にジョンではなくアイヴァンと名づけるアメリカ人もいる。チリのサッカー選手にもイバンてのがいたっけ。
 女性形イヴァーンナ Ива́нна(古形ヨアーンナ Иоа́нна)は使われることはない。
 愛称形として一番ポピュラーなのはヴァーニャ Ва́ня だろう。イヴァーンカ Ива́нка、イヴァニューハ Иваню́ха、イヴァーシク Ива́сик、イーシャ И́ша、イシュータ Ишу́та、ヴァニューラ Ваню́ра、イーヴァ И́ваなどというものもある。
 1/2, 1/11, 1/20, 1/30, 2/3, 2/4, 2/6, 2/8, 2/9, 2/12, 2/13, 2/17, 2/23, 3/6, 3/8, 3/9, 3/11, 3/13, 3/18, 3/22, 3/24, 3/29, 4/2, 4/9, 4/11, 4/12, 4/21, 4/24, 4/25, 4/27, 5/1, 5/2, 5/10, 5/12, 5/19, 5/20, 5/21, 5/25, 5/27, 6/1, 6/2, 6/4, 6/5, 6/6, 6/7, 6/8, 6/9, 6/11, 6/15, 6/20, 6/23, 6/25, 7/2, 7/3, 7/7, 7/9, 7/10, 7/11, 7/13, 7/16, 7/25, 7/31, 8/3, 8/12, 8/13, 8/15, 8/16, 8/17, 8/22, 8/31, 9/7, 9/11, 9/12, 9/15, 9/16, 9/20, 9/27, 9/28, 10/3, 10/6, 10/9, 10/11, 10/14, 10/15, 10/16, 10/25, 10/28, 11/1, 11/3, 11/4, 11/10, 11/14, 11/17, 11/22, 11/25, 11/26, 11/30, 12/3, 12/11, 12/12, 12/15, 12/16, 12/17, 12/20, 12/23, 12/24, 12/30。
 「Добрый Иван ― и людям, и нам. 優しいイヴァーン、人にも我々にも」
 「Был у меня муж Иван ― не приведи Бог и вам. わたしにはイヴァーンという夫がいた。あなたにも、なんてことはあって欲しくない」
 「Щёголь Ивашка, что ни год, то рубашка.」
 「Иван Марьи не слушается: сам приказывать горазд.」
イオーシフ Ио́сиф
古代ユダヤ人の男性名ヨセフ Joseph から。語源は古代ヘブライ語の Jo-(ヤハウェ)+ seph(増やす)。
 ジョゼフ Joseph(英語)、ヨーゼフ Josef(ドイツ語)、ジュセッペ Giusseppe(イタリア語)、ホセ José(スペイン語)など、イエスの «父» のイーミャとして、これまたヨーロッパではポピュラーである。ただ、ロシアでは西欧ほどの人気がないような気がする。とはいえ、ブローツキイなどこのイーミャの持ち主は多い。最も有名なのはスターリンだろうが。
 俗形としてオーシプ О́сип というのがあり、そこそこ使われている。イオーシフォフなどという姓がないのにオーシポフという姓には時々お目にかかることがある。マンデリシュタームもイオーシフではなくオーシプである。
 女性形はない。
 愛称形としてはイオーシャ Ио́ся、オーシャ О́ся などがある。
 1/27, 2/4, 2/8, 2/17, 3/15, 4/13, 4/17, 5/24, 6/2, 6/30, 7/6, 8/13, 9/10, 9/22, 10/4, 10/31, 11/12, 11/16, 12/3。
イーゴリ И́горь
北ゲルマン人の男性名イングヴァール Ingvarr から。語源となるイング Ing とは平和の神の名だと言われるが、北欧神話には出てこない。どういう神なのだろうか? 後半は北ゲルマン系の言語で varr で «庇護»、あるいは arr で «戦士» を意味するとされる。これがロシアに入ってイングヴァーリ Ингва́рь となり、それが省略されてイーゴリになったようだ。
 ただし別の説によると、語源は同じく北ゲルマン語で yr(弓)+ herr(軍)。現在スカンディナヴィアでイヴァル Ivar とかイヴォル Ivor とされるイーミャだそうだ。
 後述のエゴールと混同する人が専門家の中にもときたまいたりするが、全然違うイーミャである。
 クルチャートフだのキリーロフ(TVのニュースキャスター)だの、このイーミャを持つ著名人は多いが、やはりロシア人にとってはこのイーミャは «イーゴリ公» と強く結び付けられている。異教のイーミャで、しかもこのイーミャを持つ聖人もいないにもかかわらずこんにちまで生き残っているのは、ひとえにイーゴリ公のお陰と言ってもいいのではないだろうか。
 女性形はない。
 愛称形はゴーリャ Го́ря、イゴリョーク Игорёк、イゴリューハ Игорю́ха、イゴーシャ Иго́ша、ゴーシャ Го́ша、グーリャ Гу́ля など多種多様だが、このままで呼ぶことが多かったように記憶している。
 6/18, 10/2。
 「Живёт Игошка: есть собака да кошка. イーゴリが住んでいる。犬も猫もいる」
イジャスラーフ Изясла́в
語源は古スラヴ語の изяти(獲得)+ слава(栄光)。あまたある «〜スラーフ» というスラヴ系イーミャのひとつ。
 と挙げたはいいが、たぶん近年ではかなりすたれている。とりあえずこの名の持ち主が、有名無名を問わず思い浮かばない。
 女性形は文献上確認されない。
 愛称形はイジャスラーフカ Изясла́вка、スラーヴァ Сла́ва のふたつしか、わたしの参考にした名前辞典には載っていなかった。ということは、どちらも当たり前につくりだせる愛称形なので、おそらく名前辞典の筆者も使われている実例に接したことがなかったのではないだろうか。それほどまれなイーミャということだろう(こんな項目つくる意味なかった)。
 とにかくこの «〜スラーフ» というイーミャは(種類だけは)非常に多い。しかもその後半部からつくられるスラーヴァという愛称形は共通しているので、けっこう頻繁にスラーヴァという愛称形にはお目にかかる。問題は前半部がどうなっているかだ。
イリヤー Илья́
古代ユダヤ人の男性名エリヤフ Elijah から。語源は古代ヘブライ語の el + Jah(ヤハウェ)。el とは3000年程前のイスラエル・パレスチナの地では «神» を意味する言葉だったようで、つまりは «ヤハウェは神なり» という意味だったようだ。
 預言者エリヤで著名だが、どうもヨーロッパではこのイーミャは不遇で、わたしの知る限りではロシア以外では一般的に使われていないように思う。もっとも、ギリシャ語化されたエリアス Elias の派生形にはたまにお目にかかるが。
 ロシアでは普通に使われるイーミャである。レーピンだのグラズノーフだのエレンブルクだの。しかしロシア人にとっては、おそらくイリヤーと言えば真っ先に思い浮かぶのがイリヤー・ムーロメツではないだろうか。
 女性形はない。
 愛称形はイーリャ И́ля などというのもあるが、おそらくドストエフスキイを愛好する日本人にはイリューシャ Илю́ша/Илю́ся、イリユーシャ Илью́шаの方が馴染みがあるのではないだろうか。ほかにもイリユーハ Илью́ха、イリャーハ Иля́ха、イリューニャ Илю́ня、リューシャ Лю́ся、リューニャ Лю́ня、リューリャ Лю́ля など。
 それにしても、イリイーンという姓よりもイリユーシンという姓の方がよく聞かれるというのはどういうことなんだろう。
 1/1, 1/21, 1/27, 2/13, 2/29, 3/22, 4/10, 8/2, 9/26, 9/30, 10/11, 11/16。
 「Рад Илья, что опоросилась свинья.」
 「Пётр с колоском, Илья с колобком.」
ヴァシーリイ Васи́лий
古代ギリシャ人の男性名バシレイオス Basileios から。語源は古代ギリシャ語の basileus(王)。もっとも、古代ギリシャ語には「皇帝」という意味の単語がなく、ビザンティン皇帝も basileus と呼ばれていた。
 このイーミャもロシア語(あるいは一部スラヴ系)以外ではあまりお目にかかることがない。せいぜい、20世紀前半のホームズ役者にそういうイーミャの人がいた程度だろうか(イギリス人だったので «ベイジル Basil» といったが)。ロシアではスーリコフだのチャパーエフだの、よく聞かれるイーミャである。ロシアでこのイーミャが一般的なのは、ロシアをキリスト教化したキエフ大公ヴラディーミルの洗礼名がバシレイオス(ヴァシーリイ)だったから。
 ヴァシリーサ Васили́са はヴァシーリイの女性形と言うよりは、独自のイーミャ。
 愛称形はいろいろあって、ヴァーシャ Ва́ся、ヴァシーリカ Васи́лька、ヴァシリョーク Василё́к、ヴァシューニャ Васю́ня、ヴァシューラ Васю́ра、ヴァシュータ Васю́та、ヴァシューハ Васю́ха、ヴァシューシャ Васю́ша、ヴァシャーク Вася́к、ヴァシャーシャ Вася́ша、ヴァシャーハ Вася́ха、ヴァシャータ Вася́та、ヴァシャーイ Вася́й、シューラ Сю́ра 等々。
 1/14, 2/12, 2/14, 2/19, 2/23, 3/3, 3/13, 3/15, 3/17, 3/20, 4/4, 4/5, 4/8, 4/25, 5/9, 5/12, 5/13, 5/19, 5/23, 6/5, 6/21, 6/23, 7/3, 7/14, 7/16, 7/19, 7/28, 8/15, 8/24, 10/11, 10/15, 11/8, 11/13, 12/11。
 「А Васька слушает да есть.」
 「Васька идёт, бородою трясёт.」
ヴァディーム Вади́м
語源は必ずしもはっきりしない。一般的には、古代スラヴ語 вадити (批判・告発・中傷する)からヴァディミール Вадими́р というイーミャがつくられ、それが省略されてヴァディームになったと考えられている。
 いずれにしてもロシア語特有のイーミャで、ロシア語以外でお目にかかることはない。もっとも、このイーミャの最も有名な持ち主ヴァディーム・プレミャーンニコフはフランス人。ロジェ・ヴァディムを名乗った。
 女性形はない。
 愛称形はヴァディームカ Вади́мка、ディーマ Ди́ма、ヴァーデャ Ва́дя、ヴァディーシャ Вади́ша、ヴァデューシャ Вадю́ша。
 4/22。
ヴァレーリイ Вале́рий
ローマ人の男性名ウァレリウス Valerius から。語源はラテン語の valeo(壮健)。このイーミャから派生したウァレリアヌスもロシア語に入ってヴァレリアーン Валериа́н となっている。
 このイーミャはなぜか西欧では不人気で、少なくともわたしはほとんど覚えがない。ロシアではチカーロフ、ブリューソフ、メラーゼなどよくあるイーミャなのだが。
 女性形はヴァレーリヤ Вале́рия。
 愛称形は、ヴァレーラ Вале́ра、レーラ Ле́ра、レルーニャ Леру́ня、レルーシャ Леру́ся/Леру́ша、ヴァーリャ Ва́ля、ヴァレーシャ Вале́ша、ヴァリューニャ Валю́ня、ヴァリューシャ Валю́ся/Валю́ша 等々。
 3/22, 11/20。
ヴァレンティーン Валенти́н
ローマ人の男性名ウァレンティヌス Valentinus から。語源はラテン語の valens(壮健な)。
 ヴァレンタインデーの名で世界的に有名。聖ウァレンティヌスは3世紀の殉教者だと言われているが、ヴァレンタインデーの風習はそれ以前の、ローマの女神ユノーに由来するものらしい。
 女性形はヴァレンティーナ Валенти́на。
 愛称形は、ヴァーリャ Ва́ля、ヴァリューニャ Валю́ня、ヴァリューシャ Валю́ся/Валю́ша、ヴァリャーカ Валя́ка、ティーナ Ти́на など。
 4/27, 5/7, 7/19, 8/12, 10/11。
ヴィークトル Ви́ктор
ラテン語 victor(征服者)から。もっとも、歴史的に見ると少々複雑である。
 もともと古代ギリシャ語で勝利をニケーと言った。これが神格化されたのが、ルーヴル美術館の目玉にもなっている女神である。それがローマにも取り入れられ、ウィクトリア Victoria という名を与えられた。この言葉は victor からつくった造語である。こうして、まずは女性名として一般化し、やがて遡って victor という言葉がこんどは男性名として普及していった。
 ということで、ヴィークトルの女性形と言うよりはむしろオリジナル・バージョンと言うべき女性版はヴィクトーリヤ Викто́рия。
 愛称形は、トーラ То́ра、ヴィーカ Ви́ка、ヴィーテャ Ви́тя、ヴィートカ Ви́кта、ヴィーシャ Ви́ша、ヴィテューリャ Витю́ля、ヴィテューニャ Витю́ня、ヴィテューハ Витю́ха、ヴィテューシャ Витю́ся/Витю́ша 等々、無数にある。
 2/13, 3/3, 3/23, 4/2, 4/28, 5/1, 7/19, 9/2, 9/29, 10/10, 11/19, 11/24。
ヴィターリイ Вита́лий
ローマ人の男性名ウィタリウス Vitalius から。語源はラテン語の vitalis(生きた)。ロシア語以外では見かけないイーミャだ。
 多少違う形や女性形もあるものの、それらにお目にかかることは滅多にない。
 愛称形はヴィターリャ Вита́ля、ターリャ Та́ля、ヴィータ Ви́та、ヴィターシャ Вита́ся/Вита́ша、ヴィテューシャ Витю́ша など。
 2/7, 5/5, 5/11, 8/5。
ヴャチェスラーフ Вячесла́в
語源は古スラヴ語の вяче(もっと)+ слава(栄光)。あまたある «〜スラーフ» というスラヴ系イーミャのひとつ。語源的には、チェコ語のヴァーツラフ Václav と同じ。
 ティーホノフは日本ではいまいち有名ではないし、やっぱりモーロトフだろうか。
 女性形は文献上確認されない。
 愛称形はヴャチェスラーフカ Вячесла́вка、スラーヴァ Сла́ва、スラヴーニャ Славу́ня、スラヴーシャ Славу́ся、スラヴーハ Славу́ха、ヴャーチャ Вя́ча、ヴァーヴァ Ва́ва。
 3/17, 10/11。
ヴラディスラーフ Владисла́в
語源は古スラヴ語の влад-(支配)+ слава(栄光)。あまたある «〜スラーフ» というスラヴ系イーミャのひとつ。
 あまりほかのスラヴ語(西や南)と共通性のないロシアの «〜スラーフ» にあって、これはポーランド語のヴワディスワフ Władysław と一致する。このイーミャはさらにチェコ語にもあってヴラディスラフ Vladislav。そこからハンガリー語に入ってウラースロー Ulászló となっている。もっとも、いまでも使われているかどうかは知らない(たぶんこんにち一般的に使われているのはポーランドぐらい)。
 むしろ西欧では、これが崩れてラディスラウス Ladislaus (ラテン語)となり、そこからそのままドイツ語に、イタリア語やスペイン語に(ラディスラーオ Ladislao)、ハンガリー語に(ラースロー László)と広がっていって、こちらの方がまだしも一般的だろう(たぶんハンガリーではいまでも一般的なイーミャ)。
 女性形はヴラディスラーヴァ Владисла́ва。
 愛称形は、ヴラディスラーフカ Владисла́вка、スラーヴァ Сла́ва、スラヴーニャ Славу́ня、スラヴーシャ Славу́ся、ヴラーデャ Вла́дя、ヴラーダ Вла́да、ラーデャ Ла́дя、ラーダ Ла́да。
 10/7。
ヴラディーミル Влади́мир
語源は古スラヴ語 влад-(支配)+ мир(平和)。
 汎スラヴ的なイーミャで、ポーランドやチェコでも普通に見られる(表記・発音は異なる)。文献上最初にこのイーミャを名乗ったのはブルガリア王ボリス1世の長男。ロシアでは、キエフ・ルーシをキリスト教に改宗させたキエフ大公ヴラディーミル、またキエフ・ルーシ統一時代の英明の君主ヴラディーミル・モノマーフによって、広く親しまれたイーミャとなっている。ほかのスラヴ系のイーミャが、キリスト教化されていく中で廃れていったのに対して、このイーミャが生き残った理由のひとつは、上記2名のキエフ大公のポピュラリティによるところが大きいだろう(最初のヴラディーミルはキリスト教会にとっても聖者だった)。
 このイーミャに関しては、3つの誤謬が見られる。
 ひとつは、ヴラディミールという表記。これは、たとえばチェコ語 Vladimír の発音であって、ロシア語ではアクセントの位置が異なる。
 もうひとつは、スカンディナヴィア系の男性名ヴァルデマール Waldemar との混同である。これは waldo-(支配)+mari(名誉)と分解できる。歴史上最初にこのイーミャを名乗ったのは、デンマーク王ヴァルデマール1世大王だが、彼の母方の祖父はキエフ大公ムスティスラーフ・ヴェリーキイで、その父がヴラディーミル・モノマーフ。ちなみに母親の兄もヴラディーミルというイーミャだった。つまりヴァルデマール大王は、母方の曽祖父ヴラディーミル・モノマーフ、あるいは伯父にちなんで名づけられたのだ(ヴァルデマール大王は父親の死後誕生したので、母親が自由に名づけられたのだろう)。その時に、ヴラディーミルそのままではデンマーク語として意味を成さないので、ヴァルデマールと書き換えられたのだろう。
 さらに、ヴラディーミルというイーミャは「世界征服」を意味する、とする文献が少なくないが、これはおそらく間違い。
 влад- には「征服」という意味はない。влад- はもともと「支配」と言うよりは「所有」、「領有」、「掌握」といった意味合いであった。ウラジオストク(ロシア語ではヴラディヴォストーク Владивосток)は「東方征服」ではなく「東方領有」という意味である。
 一方、確かに現代ロシア語の мир には「平和」という意味と並んで「世界」という意味もある。しかし、たとえばチェコ語の mir には「世界」という意味はないし、ロシア語でも古くは「世界」を意味したのは別の単語だった(свет)。мир が「世界」という意味を持つようになったのは後の時代の話である。社会主義革命の父レーニンのイーミャが「世界征服」だったなんてなかなかに面白いが、おそらくこれは間違い。
 レーニンのほかにも、ダーリ、マヤコーフスキイ、ヴィソーツキイなど、歴史に名を残したこのイーミャの持ち主は数多い。
 女性形はあるにはあるが、まず間違いなく使われない。
 愛称形ではディーマ Ди́ма とヴォローデャ Воло́дя が特にポピュラーであろう。また、ヴラーデャ Вла́дя、ラーデャ Ла́дя、ヴァーヴァ Ва́ва、ヴォーヴァ Во́ва、ヴァヴーリャ Ваву́ля、ヴォヴーニャ Вову́ня、ヴォーリャ Во́ля、ヴォロデューハ Володю́ха、ヴォロデャーカ Володя́ка などというのもある。
 6/4, 7/28, 10/17。
エヴゲーニイ Евге́ний
古代ギリシャ人の男性名エウゲニオス Eugenios から。語源は古代ギリシャ語の eu-(良い)+ genes(生まれ)。
 かなりヨーロッパ各地でポピュラーで、ユージーン Eugene(英語)、ウジェーヌ Eugène(フランス語)、オイゲン Eugen(ドイツ語)などが使われている。
 ロシア人だと、古い世代だとエフトゥシェンコ、今時の世代だとプリュシチェンコだろうか(これも古いか)。
 女性形はエヴゲーニヤ Евге́ния。
 愛称形はジェーニャ Же́ня で決まりだと思っていたが、チェブラーシュカにはゲーナ Ге́на と呼ばれるクロコディールが登場した。ほかにも、ジェーシャ Же́ша、ゲーシャ Ге́ша、エーニャ Е́ня、ジェニューラ Женю́ра、エニャーハ Еня́ха、エニュータ Еню́та といった形がある。
 1/21, 2/3, 2/25, 3/4, 3/10, 3/20, 8/3, 10/8, 11/20, 12/7, 12/23, 12/26。
エゴール Его́р
古代ギリシャ人の男性名ゲオルギオス Georgios から。語源は古代ギリシャ語の ge(大地)+ ergon(働き)。
 聖ゲオルギオスの人気とともに、ヨーロッパでは非常にポピュラーなイーミャとなった(英語ジョージ George、フランス語ジョルジュ Georges、ドイツ語ゲオルク Georg、イタリア語ジョルジョ Giorgio 等々)。ただし、あまり王侯貴族には使われていない(このイーミャを持つ王様はイギリスに6人いただけ)。おそらく、語源的には «農夫» を意味するからではないだろうか。
 このイーミャはちょっと変。
 まず、どこをどうしたらゲオルギオスがエゴールになるのだろうか? もっとも、スラヴ系はどれも似たり寄ったりではある(ポーランド語イェジ Jerzy、チェコ語イジー Jiří 等。ドイツ語でもユルゲン Jürgen)。
 もうひとつは、後述するゲオールギイ、ユーリイとあわせて、ゲオルギオスを起源とするイーミャがロシア語には3つもある。ごく大雑把に言うと、エゴールが最も庶民的で、他方ゲオールギイの方はペダンティックな印象がある。モスクワの «建設者» として知られている12世紀のロストーフ=スーズダリ公は、一般的にはユーリイ・ドルゴルーキイと呼ばれているが、ときたまゲオールギイ・ドルゴルーキイと書かれているものを見かける。ただしエゴール・ドルゴルーキイと呼ばれることはない。やはり王侯貴族のイーミャとしてエゴールはふさわしくないと感じられるのだろう。また、聖ゲオルギオスも聖ユーリイとか聖ゲオールギイとは呼ばれても聖エゴールとは呼ばれない(ただし聖エゴーリイとは呼ばれる)。また、ポピュラリティーからすると、歴史的にはエゴール、ユーリイ、ゲオールギイの順になる。ただしとある資料によれば、こんにち最も一般的なのはゲオールギイだそうだ。通常この3つは完全に別々のイーミャと認識されている。
 エゴーリイ Его́рий という俗な形もあるが、どうやらエゴールの崩れた形と言うよりはゲオールギイの崩れた形と認識されているようだ(だから聖ゲオルギオスは聖エゴールとは呼ばれなくても聖エゴーリイとは呼ばれる)。ただしいずれにしても、この形はこんにちあまり一般的ではない。
 女性形はない。
 愛称形としては、ジョーラ Жо́ра、ゴーラ Го́ра、ゴーガ Го́га、グーニャ Гу́ня、エゴールカ Его́рка などがある。
 独自の名の日はない。ゲオールギイを参照のこと。
 「Из-за многих гор вышел дядя Егор.」
 「У зазнайки Егорки похвальбы да отговорки.」
 「На всякого Егорку есть поговорка.」
 「Не идёт Федора за Егора, а Федора идёт, да Егор-то не берёт. フェドーラはエゴールのところに行かないし、行ってもエゴールが受け取らない」
エドゥアールド Эдуа́рд
イギリス人の男性名エドワード Edward から。語源は古英語の ead(富)+ weard(ガード)。アングロ=サクソンのイーミャでこんにちまで生き残り、しかも外国にも輸出されたのはこれだけ(ごくごくマイナーなものを除いて。なお、エドガーやアルフレッドは一時消えていた)。
 当然ロシアでも外来のイーミャで、ロシア人も使用するようになったのは、おそらくソ連時代に入ってから。いまでも «外国人のイーミャ» というイメージは残っている。
 このイーミャの持ち主で最も有名なのは、ウスペーンスキイ。«チェブラーシュカ» の原作者であろう。サッカー好きにはストレリツォーフ。
 愛称形はエドゥアールディク Эдуа́рдик、エーディク Э́дик、エーデャ Э́дя、エデューニャ Эдю́ня。
オレーグ Оле́г
北ゲルマンの男性名ヘルギ Helgi から。語源は北ゲルマン語の heill(完全な・幸福な)。「ハイル・ヒトラー!」の «ハイル» の語源である。これが heilagr を経てヘルギとなったらしい。
 キエフ大公国の建国者のイーミャとして伝統的に広く使われている。ただしキリスト教化されて以来、少々使用例は少なくなったように思われる。それが再び一般化したのは、おそらくソ連時代に入ってから。
 女性形はオーリガ О́льга。
 愛称形の中では特にオーリャ О́ля がポピュラー(オレーグ、オーリガとも)。ほかに、レーガ Ле́га、リョーカ Лё́ка、リョーシャ Лё́ша、オレーシュカ Оле́жка など。
 10/3。
キリール Кири́лл
古代ギリシャ人の男性名キュリロス Kyrillos から。語源については女性名キーラを参照のこと。
 «理想の君主» とされたペルシャ王キュロスの名は、その後古代ギリシャ語で「王者」といった意味で普通名詞化していく。聖書のギリシャ語訳ではヤハウェのことを Kyrios と訳している(この言葉はさらにラテン語で Dominus、英語で Lord、つまり「主」と訳された)。この kyrios からキュリロスがつくられた。
 ロシアでは、スラヴ人に聖書を広めるために宣教活動を行った聖キュリロスの名として、特に人気があった(現モスクワ総主教もキリールという)。事実、現実にはこのイーミャはロシア以外ではほとんどお目にかかれない(アメリカの作家にシリル・コーンブルース Cyril Kornbluth というのがいた程度か?)。
 女性形はあるが、通常はキーラと対応していると考えられている。
 愛称形はキーリャ Ки́ря 辺りが適当だろうか。
 1/31, 2/17, 2/27, 3/18, 3/22, 3/31, 4/3, 4/11, 5/11, 5/17, 5/24, 6/3, 6/22, 6/30, 7/22, 8/15, 9/19, 10/23, 11/11, 11/20, 12/15, 12/21。
 「Эх, Кирей, не нашёл ты дверей! キリールよ、ドアを見つけられなかったんだね」
 「Радуйся, Кирюшка, будет и у бабушки пирушка. 喜べ、キリール、お婆ちゃんちで宴会がある」
グリゴーリイ Григо́рий
古代ギリシャ人の男性名グレゴリオス Gregorios から。語源は古代ギリシャ語 gregorein(注意する)。
 このイーミャの持ち主は歴史上星の数ほどいるが、少なくとも日本人にとってこのイーミャを持つロシア人として最も有名なのは、ラスプーティンであろう。ただし大抵の文献で «グレゴリー» と表記されているが、これは間違い(グレゴリーは英語)。
 女性形グリゴーリヤ Григо́рия の使用例というのは、わたしは聞いたことがない。
 愛称形はグリーシャ Гри́ша が一般的だろうか。
 1/1, 1/1, 1/18, 1/21, 1/23, 2/1, 2/7, 2/12, 2/23, 3/17, 3/25, 4/15, 4/23, 5/3, 6/6, 6/28, 8/1, 8/21, 8/22, 9/10, 9/12, 10/11, 10/13, 10/14, 11/18, 11/20, 11/27, 11/30, 12/3, 12/6, 12/7, 12/11, 12/20。
 「У всякого Гришки своиделишки.」
 「Ни Миша ни Гриша. ミーシャ(ミハイール)でもグリーシャ(グリゴーリイ)でもない(あれでもないこれでもない)」
 「Наш Гришка не просит лишка. うちのグリゴーリーは余分に欲しがったりしない」
グレーブ Гле́б
イーゴリ、オレーグと同様、北ゲルマン(スカンディナヴィア)から来たイーミャ。現代ドイツ語ではゴットリープ Gottlieb (Gott 神 + Liebe 愛)だが、実はドイツ語のゴットリープは17世紀にプロテスタントが古代ギリシャの男性名テオフィロス Theophilos(神の愛)を翻訳して新たにつくったイーミャ。もともとの北ゲルマン語でどういうイーミャだったのかは知らない。
 聖ボリースと聖グレーブの兄弟のイーミャとして広く一般に浸透している。
 女性形はなく、愛称形もわたしの知っている限りではグレーブカ Гле́бка があるのみ。
 5/15, 7/3, 8/6, 9/18。
ゲオールギイ Гео́ргий
エゴールを参照のこと。
 エゴールのところでも述べたが、エゴールが庶民的であるのに対して、ゲオールギイは貴族的とでも言うか、高踏的とでも言うか、一種 «気取った» イメージがある。たとえばロマーノフ家にはゲオールギイというイーミャの持ち主はいてもエゴールというイーミャのプリンスはいない。
 ただし、こんにちではエゴールや、もうひとつの仲間ユーリイに比して、最も一般的なイーミャであるらしい。ひとつにはエゴールやユーリイと比べてイメージがいいことがあろうが、やはりジューコフというこのイーミャの持ち主の存在が大きいだろう。
 女性形はゲオルギーナ Георги́на(まず使われることはない)。
 愛称形はジョーラ Жо́ра など。
 1/11, 1/21, 1/30, 2/4, 2/10, 2/17, 2/27, 3/6, 3/17, 3/18, 3/23, 3/24, 4/5, 4/17, 4/18, 4/20, 4/26, 5/2, 5/6, 5/10, 5/26, 5/29, 6/8, 6/19, 6/27, 8/3, 8/13, 8/31, 9/6, 10/15, 11/10, 11/16, 12/9, 12/31。
ゲンナーディイ Генна́дий
古代ギリシャ人の男性名ゲンナディオス Gennadios から。語源はよくわかっていない。前半が古代ギリシャ語 genes (生まれ)であるのはおそらく確かだろうが、後半が何かが不明。
 現実にはまず間違いなくロシア語以外では使われていない。
 女性形はあるにはあるが、使われている例を見たことがない。
 愛称形はゲンナーシャ Генна́ша、ゲナーシャ Гена́ша、ゲーナ Ге́на、ゲーニャ Ге́ня、ゲヌーリャ Гену́ля、ゲニューリャ Геню́ля、ゲヌーシャ Гену́ся/Гену́ша、ゲニューシャ Геню́ся/Геню́ша、ゲヌーハ Гену́ха、ゲニューハ Геню́ха、ゲーシャ Ге́ша、ゲーヤ Ге́я。
 2/5, 2/22, 2/23, 6/5, 9/13, 11/30, 12/17。
コンスタンティーン Константи́н
ローマ人の男性名コンスタンティヌス Constantinus から。語源はラテン語の constans(コンスタントな)。ここからコンスタンティウス Constantius というイーミャがつくられ、さらにここから派生したのがコンスタンティヌスである。しかしコンスタンティヌスがローマ皇帝としてキリスト教を受容した大帝の名であったことから、コンスタンスだとかコンスタンティウスだとかいったほかの形は完全に忘れ去られてしまった。
 パウストーフスキイやロコソーフスキイ、ツィオルコーフスキイのイーミャ、と言っても、日本では知られていない。
 女性形としてはコンスターンツィヤ Конста́нция などあるが、あまり使われていないように思われる。
 愛称形として最も一般的なのはコーステャ Ко́стя だろう。
 1/8, 3/18, 3/19, 6/3, 6/5, 6/11, 6/15, 6/18, 6/21, 7/8, 7/14, 7/16, 8/11, 8/17, 9/16, 10/2, 11/4, 11/27, 12/11。
スヴャトスラーフ Святосла́в
語源は古スラヴ語の свят-(聖なる)+ слава(栄光)。あまたある «〜スラーフ» というスラヴ系イーミャのひとつ。
 ハザール帝国を滅ぼし、ブルガリアを征服した英雄時代の古代ルーシを代表するスヴャトスラーフ・イーゴレヴィチ以下、このイーミャを持つリューリク家の諸公は無数にいた。近年でもリヒテルを筆頭に、このイーミャの持ち主は(多いとは言えないまでも)少なくない。
 女性形はスヴャトスラーヴァ Святосла́ва。
 愛称形は、スヴャトスラーフカ Святосла́вка、スヴャータ Свя́та、スヴェータ Све́та、スラーヴァ Сла́ва、スラヴーニャ Славу́ня、スラヴーシャ Славу́ся、ヤーシャ Я́ся。
 2/16。
スタニスラーフ Станисла́в
ポーランド人の男性名スタニスワフ Stanisław より。語源は古スラヴ語の стан-(宿営)+ слава(栄光)。あまたある «〜スラーフ» というスラヴ系イーミャにしては珍しく、外国からロシア語に入ってきたもの。もっとも、文献上の初出はたぶんピャスト家(ポーランド)よりもリューリク家(ルーシ)の方が早い。
 個人的な印象としては、無数の «〜スラーフ» の中で、こんにちロシアで最も多いのがこのスタニスラーフではないかと思う。
 女性形はスタニスラーヴァ Станисла́ва。
 愛称形はスタニスラーフカ Станисла́вка、スターニャ Ста́ня、スターシャ Ста́ся、スラーヴァ Сла́ва、スラヴーニャ Славу́ня、スラヴーシャ Славу́ся。
 4/11, 5/7。
ステパーン Степа́н
古代ギリシャ人の男性名ステパノス Stephanos から。語源は古代ギリシャ語の stephanos (冠)。
 最初の殉教者聖ステパノスのイーミャとして非常にポピュラーで、スティーヴン Stephan(英語)、エティエンヌ Étienne(フランス語)、シュテファン Stephan(ドイツ語)、エステバン Esteban(スペイン語)、イシュトヴァーン István(ハンガリー語)等々。
 女性形もあるが、使われることはない。
 愛称形はいくつかあるが、歴史的に名高いのはステーンカ Сте́нька だ。
 1/9, 1/17, 1/24, 1/27, 2/21, 2/26, 3/12, 4/6, 4/8, 4/10, 5/9, 5/10, 5/30, 6/6, 6/20, 6/25, 6/28, 7/18, 7/26, 7/27, 7/31, 8/1, 8/13, 8/15, 8/25, 9/28, 10/7, 10/11, 10/15, 10/17, 11/10, 11/12, 11/13, 11/24, 12/11, 12/15, 12/22, 12/23, 12/28, 12/30。
 「Ловко Стёпка печку склал: труба высокая, а дым в подворотню тянет.」
 「Не Стенька: на ковре по Вогле не поплывёшь.」
セミョーン Семё́н
古代ユダヤ人の男性名シモン Shimon から。語源は古代ヘブライ語の shama(彼は聞いた)。
 なお、古代ギリシャ語 simos(団子鼻)が語源だという説もあるが、これは違うだろう。旧約聖書に多数このイーミャの持ち主が現れるし。聖ペテロの本名もシモンだった。これが古代ギリシャ語に翻訳された際に Symeon となったので、Simon と Simeon の二通りがあり得る。ロシア語でもセミョーンの古形としてシメオーン Симео́н があるほか、これも古形にシーモン Си́мон というのもある。セミョーノフという姓のほかにシーモノフという姓もポピュラーである現状から推察すると、セミョーンもシーモンもともにかつては一般的であったのかもしれない。
 女性形はない。西欧でもシモーヌ Simone(フランス語)ぐらいしかないのではないだろうか。そういうイーミャの女優もいた(ドイツ人だが)。
 愛称形は個人的には聞いたことがない。辞書には数種類載っているが。
 1/17, 2/8, 2/14, 2/16, 2/23, 2/26, 3/25, 4/18, 4/30, 5/10, 5/31, 6/6, 6/28, 8/3, 9/14, 9/25, 11/12, 11/22, 12/29, 12/31。
 「Грозен Семён, а боится Семёна одна ворона.」
 「По Сеньке шапка, по Ерёме колпак.」
 「С денежкой ― «Милый Сенюшка», а без денег ― «Пошёл вон, Семён!»」
セルゲーイ Серге́й
ローマ人の氏族名セルギウス Sergius から。語源は不明。
 中世には4人のローマ教皇がこのイーミャを名乗ったが、なぜかポピュラーにはならなかった。例外がロシア、それにイタリア? マカロニ・ウェスタンの巨匠が思い起こされる。いや、フランスにもセルジュ・ブールギニョン Serge Bourguignon という人がいたっけ。
 古形はセールギイ Се́ргий。修道士セールギイ・ラードネシュスキイは広く崇拝され、セルゲーイというイーミャが一般的になる一因ともなっている。ラフマーニノフ、エセーニン、コロリョーフなどが、パッと思いつく著名人である。
 女性形はない。
 愛称形としてはセリョージャ Серё́жа が一般的だろう。
 1/15, 1/27, 4/2, 4/25, 6/1, 6/6, 7/11, 7/18, 8/25, 9/24, 10/8, 10/11, 10/20, 10/23, 11/29, 12/11。
 「К милому Серёженьке сами бегут ноженьки.」
 「Сергей, Серёжа, пройми ухо.」
ダヴィード Дави́д
古代ユダヤ人の男性名ダウィド Dawidh から。«お気に入り» とか «愛すべき» といったような意味だったと考えられている。言うまでもなく古代ユダヤの王のイーミャである。
 とはいえ、西欧では必ずしも一般的なイーミャでもないようだ。少なくとも歴史的にはこのイーミャはさほど使われていないし、いまでもカトリック圏ではほとんどお目にかかることはない。ロシアでは、聖グレーブの洗礼名がダヴィードであったことから、西欧よりは広く使われていたように思われる。
 Давы́д という異形がある。女性形はない。
 愛称形はダーヴァ Да́ва、ヴィーデャ Ви́дя など。
 1/5, 1/27, 2/14, 3/18, 4/25, 5/15, 5/31, 6/5, 7/8, 7/9, 8/6, 9/18, 9/19, 10/2, 10/7, 10/31, 11/14。
 「Давид молится да плачет, а Саул веселится да скачет. ダヴィードは祈って泣く。サウールははしゃいで跳ねまわる」
 「Смирением побивает гордыню, яки Давид Голиафа.」
ダニイール Дании́л
古代ユダヤ人の男性名ダニエル Daniel から。語源は古代ヘブライ語の dan(裁き)+ el(主)。預言者ダニエルの影響で、全ヨーロッパ的にそこそこの人気がある。
 民間で崩れた形としてダニーラ Дани́ла というのもある。女性形として使われることもあるが、正式な女性形はダニイーラ Дании́ла。もっとも、おそらくどちらの女性形もそんなにポピュラーなものではない。
 愛称形は、ダニールカ Дани́лка、ダニーシャ Дани́ша、ダーニャ Да́ня、ダーナ Да́на、ダヌーシャ Дану́ся、ドゥーシャ Ду́ся。
 1/2, 3/1, 3/17, 3/31, 4/20, 6/4, 6/5, 7/23, 9/12, 9/25, 10/4, 12/11, 12/12, 12/24, 12/30。
 「Швец Данило что ни шьет, то гнило.」
 「Не помер Данила, его болячка задавила.」
ティムール Тиму́р
語源はテュルク系言語の temür(鉄)。言うまでもなくティムールだが、すでにそれ以前からキプチャク・ハーン国のハーンたちも使っていたりしたので、おそらく広くテュルク系の人々につけられていた男性名なのだろう。しかしティムール自身ロシアにさほど大きな影響を与えたわけでもないし(間接的な影響は大きかったが)、たぶん20世紀になるまでは、このイーミャの使用はロシア人と言ってもイスラーム系にほぼ限られていただろう。
 ロシア人(民族的な)にもこのイーミャが広まったのは、ソ連時代初期の児童作家アルカーディイ・ガイダールの『ティムールとかれの一党』によるところが大きい。こんにちでは、(民族的な)ロシア人もけっこう普通にこのイーミャを使っているように思われる。
 女性形はない。
 愛称形は、ティムールカ Тиму́рка、ティーマ Ти́ма、ムーラ Му́ра といったところか。
ティモフェーイ Тимофе́й
古代ギリシャ人の男性名ティモテオス Timotheos から。語源は古代ギリシャ語の time(名誉)+ theos(神)。
 聖書にも登場する聖者のイーミャであったにもかかわらず、あまり使われない。英語でもようやく17世紀以降使われはじめ、20世紀後半に入ってそこそこのポピュラリティを勝ち得た程度だ。ロシアではまだしも使われる方ではないだろうか。
 と書いたはいいが、いざこのイーミャを持った著名人を挙げようとして、思いつかない。
 女性形はない。
 愛称形としては、ティモーシャ Тимо́ша、ティーマ Ти́ма などがある。
 1/1, 1/17, 2/4, 2/6, 2/14, 2/26, 3/6, 3/12, 4/29, 5/16, 6/23, 6/25, 7/2, 8/14, 9/1, 9/2, 11/11, 11/18, 11/22, 12/11。
デニース Дени́с
古代ギリシャ人の男性名ディオニュシオス Dionysios から。語源は神ディオニュソス Dionysos。
 ディオニュソスの本来の語源や神格はよくわからないが、ギリシャ本土では葡萄・葡萄酒の神として狂乱の儀式と共に熱狂的に信奉されるようになった。またエジプトやオリエントではエジプトの神オシリスと同一視され、これまた広く信仰を集めた。その結果、ディオニュシオス、すなわち «ディオニュソス信者» というイーミャが広まる。聖ディオニュシオスは3世紀ガリアの人と言われるが、フランスの守護聖人として早くから崇められる。聖ディオニュシオスがフランス語で訛ってサン・ドニ Saint Denis となり、これがヨーロッパに広まる。ロシア語のデニースもこの影響を受けたものである。
 必ずしも人気の上位にくるようなイーミャではないが、フォンヴィージンやダヴィードフ(祖国戦争の英雄)のイーミャとして知られている。『イヴァン・デニーソヴィチの一日』は、デニースというイーミャの人物の息子イヴァーンについての物語ということになる。
 女性形はあるが、使われない。
 愛称形にはデーニャ Де́ня、ドゥーシャ Ду́ся などがある。
 1/17, 2/6, 3/23, 3/28, 3/29, 5/4, 5/19, 5/25, 5/31, 6/14, 6/16, 7/8, 7/9, 8/17, 8/31, 9/10, 9/12, 9/18, 10/16, 10/18, 10/28, 11/4, 11/14, 12/2, 12/12, 12/30。
 「Варлам, пополам! Денис, поделись!」
 「Ты, Исай, наверх ступай; ты, Денис, иди на низ; а ты, Гаврило, держись за молотило.」
 「Денис ― лихого глаза берегись!」
ドミートリイ Дми́трий
古代ギリシャ人の男性名デメトリオス Demetrios から。語源は古代ギリシャ語の de-(ge 大地)+ meter(母)。大地の豊穣を象徴する女神デメテルからつくられたイーミャである。
 そんなイーミャであるにもかかわらず、なぜかロシアでは非常にポピュラーだったし、いまでも人気がある(ロシア以外ではブルガリアやセルビアなどを除いてほとんど使われない)。もっとも、語源的には異教が起源であるとはいえ、このイーミャを持つ聖人もいたし、必ずしもキリスト教と無関係ではない。ただし特にロシアで人気がある背景には、モスクワ大公ドミートリイ・ドンスコーイの存在が大きいだろう。こんにち的にはメンデレーエフやショスタコーヴィチ、リハチョーフのイーミャとしても知られている。
 なお、アメリカ人作曲家にディミトリ・ティオムキンというのがいたが、あれは亡命ロシア人である(ロシア名ドミートリイ・テョームキン Дмитрий Тёмкин)。
 古形はディミートリイ Дими́трий、女性形はない。
 愛称形はディーマ Ди́ма、ミーテャ Ми́тя などが一般的だろう。
 1/31, 2/7, 2/9, 2/11, 2/16, 2/24, 4/1, 4/26, 5/28, 6/1, 6/5, 6/10, 6/15, 6/16, 7/21, 8/22, 9/24, 10/4, 10/7, 10/15, 11/8, 11/10, 11/28, 12/14。
 「Хитрый Митрий, да и Иван не дурак. 悪賢いドミートリイ、だがイヴァーンはバカではない」
 「До Дмитра девка хитра, а после Дмитра ещё хитрее. ドミートリイまでは娘もずるいが、ドミートリイ以後はもっとずるくなる」
ニキータ Ники́та
古代ギリシャ人の男性名アニケトス Aniketos から。語源は古代ギリシャ語の a-(否定)+ nike(勝利)。«敗れざる者» を意味したのだろう。ただしロシア語にはアニキータ Аники́та というイーミャもあり(ほとんど使われない)、ニキータの語源はまた別にある、とも言われる(ただし nike から来たことに違いはない)。
 もっとも、このイーミャを使っているのはロシア人だけのようだ。特に西欧の人間にとっては、フルシチョーフとミハルコーフがこのイーミャの持ち主として名高い。
 -а で終わっているが男性名。しかし、なぜか西ヨーロッパでは女性名として知られている。それどころか、このイーミャを子供に名付ける西欧人もいる。エルトン・ジョンも歌っていたし、そういうイーミャの泣き虫の女暗殺者もいた。一説には、ニコラスの愛称形(女性形)ニッキとの連想から普及したのだとも言われている。
 女性形はなし。
 愛称形はニーカ Ни́ка 辺りが一般的だろう。
 2/13, 3/4, 4/2, 4/16, 4/17, 5/13, 5/17, 5/27, 6/2, 6/5, 6/6, 6/10, 6/30, 7/4, 7/7, 9/22, 9/28, 10/26, 12/30。
 「Олёнка в пелёнках, Никитка у титьки.」
 「Зародился Никита на волокиту.」
ニコラーイ Никола́й
古代ギリシャ人の男性名ニコラオス Nikolaos から。語源は古代ギリシャ語の nike(勝利)+ laos(民衆)。
 聖ニコラオス(サンタ・クロース)で著名で、ニコラス Nicholas(英語)、ニコラ Nicolas(フランス語)、ニコラウス Nikolaus(ドイツ語)、ニッコロ Niccolo(イタリア語)などを始め、クラウス Klaus(ドイツ語)、ニルス Nils(北欧)、コリン Colin(英語)などさまざまな派生形を生んでいる。語頭の N- はなぜか M- に転訛することがあり、ミコワイ Mikołaj(ポーランド語)、ミクローシュ Miklós(ハンガリー語)、ミコーラ Мико́ла(ウクライナ語)などとなる。
 個人的な印象としては、ロシアにおいて聖ニコラオスは最も馴染み深い聖人のひとりであるように思われる。サンタ・クロースとして、ではない。旅行者の守護聖人として、多くの自家用車に聖ニコライのイコンが飾ってあるのだ。
 女性形はなし。
 愛称形はコーリャ Ко́ля で決まりだろう。
 1/6, 2/16, 2/17, 3/11, 3/13, 3/22, 5/7, 5/22, 5/29, 8/9, 10/5, 10/6, 10/8, 11/10, 11/13, 11/25, 12/12, 12/19, 12/29。
 「У Николы две школы: азбуки учат да кануны твердят.」
 「Лучше брани ― Никола с нами!」
パーヴェル Па́вел
ローマ人の男性名パウルス Paulus から。語源はラテン語の paulus(小さい)。
 聖パウロで名高い。そのためヨーロッパでも最もポピュラーな男性名のひとつだろう。ポール Paul(英語・フランス語)、パウル Paul(ドイツ語)、パオロ Paolo(イタリア語)、パブロ Pablo(スペイン語)等々。
 女性形はパーヴラ Па́вла などだが、まず使われないだろう。
 愛称形はパーシャ Па́ша などが特に一般的なように思う。
 1/5, 1/23, 1/27, 1/28, 2/6, 3/1, 3/17, 3/20, 3/23, 3/29, 3/30, 4/9, 4/19, 4/29, 5/16, 5/31, 6/4, 6/10, 6/16, 6/21, 7/9, 7/11, 7/12, 7/14, 7/29, 8/10, 8/12, 8/30, 9/10, 9/12, 9/23, 10/8, 10/16, 10/17, 10/23, 11/4, 11/19, 12/11, 12/20, 12/28。
 「У всякого Павла своя правда. どのパーヴェルにも自分なりの真実がある」
 「Свашка, свашенька, высватай мне Пашеньку.」
 「Павлушка ― медный лоб.」
ピョートル Пё́тр
古代ギリシャ語 petra(石)を語源とする。言うまでもなく聖ペテロだが、もともとシモンというのが本名で、«ペテロ» はイエスがつけた «あだ名» だった。マタイ福音書にはこうある。シモンがイエスに「あなたはメシア、生ける神の子です」と呼びかけたのに対して、イエスが「あなたはケファ(古代ヘブライ語で岩)、その上にわたしはわたしの教会を建てよう」と応えた。以後、シモンはケファと呼ばれるようになり、これが古代ギリシャ語に翻訳されてペトロス Petros(女性名詞 petra を男性名詞化した形)となったわけだ。
 ピーター Peter(英語)、ペーター Peter(ドイツ語)、ピエール Pierre(フランス語)、ピエトロ Pietro(イタリア語)、ペドロ Pedro(スペイン語)など、およそあらゆる言語にこのイーミャはある。その派生形も豊富で、ピエロなどというのはそのひとつだ。
 ロシアでは言うまでもなくピョートル大帝を連想させるが、ほかにもチャイコーフスキイ、カピーツァ、チャアダーエフなど、多くの偉人がこのイーミャの持ち主である。
 女性形はペートラ Пе́тра などだが、まず使われることはないだろう。
 愛称形ではペーテャ Пе́тя が最もポピュラーだろうが、音楽好きにはペトルーシュカの方が有名だろう。
 1/3, 1/10, 1/14, 1/15, 1/22, 1/25, 1/26, 1/29, 2/4, 2/8, 2/9, 2/12, 2/14, 2/20, 2/22, 4/6, 4/20, 5/16, 5/29, 5/31, 6/5, 6/9, 6/17, 6/25, 7/8, 7/9, 7/12, 7/13, 7/14, 7/27, 8/22, 9/6, 9/16, 9/23, 9/26, 10/5, 10/6, 10/14, 10/15, 10/16, 10/17, 10/18, 10/22, 12/5, 12/8, 12/11, 12/24。
 「Нашему Петру скотина не ко двору.」
 「Наварила, напекла Акулина для Петра.」
 「Дружка на дружку, а все на Петрушку.」
フィリープ Фили́пп
古代ギリシャ人の男性名フィリッポス Philippos から。語源は古代ギリシャ語の philia(愛)+ hippos(馬)。
 アレクサンドロス大王の父のイーミャとしても12使徒のひとりとしても有名。
 もっとも、なぜかフランスでは、このイーミャはロシアから入ってきたとされている。フランス王アンリ1世の妃がキエフ大公ヤロスラーフ賢公の娘アーンナで、その子フィリップ1世がこのイーミャがフランスで使われた最初だと言われているが、そう名付けられたのも母親アーンナ・ヤロスラーヴォヴナの影響だと考えられている。
 女性形フィリッパ Фили́ппа はあまり使われていないように思う。
 愛称形にはフィーリャ Фи́ля とかリーパ Ли́па などがある。
 1/6,1/17, 1/22, 2/7, 3/7, 4/11, 5/25, 7/13, 7/16, 8/30, 9/15, 10/18, 10/24, 11/27, 11/28。
 「Наш Филипп ко всему привык. うちのフィリープはすべてに習熟している」
 「Как Филипп, к тесту прилип. フィリープのようにパン生地にへばりついている」
 「Обули Филю в чёртовы лапти. フィリープに悪魔のわらじをはかせる(一杯食わせる)」
 「У Фили пили, да Филю же и побили. フィリープのところで飲んで、フィリープをぶん殴った」
フセーヴォロド Все́волод
語源は古スラヴ語の все(全て)+ волод(支配)。スラヴ系の男性名には、«〜ミール» や «〜スラーフ» は多いが、この形はたぶんこのフセーヴォロドだけ(かつてローグヴォロドというイーミャがあったが、あれは北ゲルマン起源)。しかも、おそらくロシアでしか使われていない。
 ヴラディーミルやその他 «〜スラーフ» もそうだが、キリスト教が徐々に浸透してくると次第にすたれていく。貴族の家系が記録も残っていてよくわかるのだが、14世紀前後を境に使われるイーミャが一変している。にもかかわらずフセーヴォロドが生き残った理由はよくわからない。古代ルーシに無数にいたフセーヴォロド(中には聖者となった者もいる)の影響だろうか。
 古いところでは大巣公が有名だが、20世紀にはメイエルホリドとプドーフキンがいる。
 女性形はない。
 愛称形としては、フセーヴォロドゥシュカ Все́володушка、フセーヴァ Все́ва、セーヴァ Се́ва、ヴォローデャ Воло́дя、ヴォーヴァ Во́ва、ヴァーヴァ Ва́ва、ヴォーデャ Во́дя、ヴォーリャ Во́ля、ローリャ Ло́дя。
 2/24, 5/5, 12/10。
フョードル Фёдор
古代ギリシャ人の男性名テオドロス Theodoros から。語源は古代ギリシャ語の theos(神)+ doron(贈り物)。
 このイーミャを持つ聖者が多数いたため、聖書に出てこないイーミャであるにもかかわらずヨーロッパではそこそこポピュラーである。シオドア Theodore(英語)、テオドール Théodore(フランス語)・Theodor(ドイツ語)など。ロシアでこのイーミャを持つ著名人と言えば、ドストエーフスキイとシャリャーピンがまず挙げられる。
 ちなみに、ギリシャ語の th はロシア語では ф になる。トマス Thomas がフォマー Фома́ など。
 女性形はフェオドーラ Феодо́ра というのがあるが、あまり使われていない。
 愛称形はフェーデャ Фе́дя 辺りが最もポピュラーだろうか。
 1/9, 1/24, 2/1, 2/5, 2/8, 2/12, 2/21, 2/27, 3/2, 3/7, 3/10, 3/18, 3/19, 4/17, 4/23, 4/28, 5/3, 5/4, 5/5, 5/25, 5/29, 5/31, 6/3, 6/4, 6/5, 6/6, 6/7, 6/10, 6/21, 6/28, 7/8, 7/17, 7/22, 7/25, 7/27, 8/3, 8/8, 8/14, 8/15, 8/21, 8/24, 9/10, 9/12, 9/15, 9/17, 9/18, 9/25, 10/2, 10/3, 10/11, 10/15, 11/4, 11/13, 11/14, 11/16, 11/17, 11/20, 11/24, 12/2, 12/6, 12/11, 12/16, 12/31。
 「Федька и попу правды не скажет. フョードルは坊さんにさえ真実を言わない」
 「У всякого Федорки свои отговорки. どのフョードルにも言い訳がある」
 「Федюшке дали денежку, а он и алтын просит. フョードルに金をくれてやったら、さらに小銭を欲しがる」
ボリース Бори́с
語源は不明。スラヴ系の学者はロシア語などのボリスラーフ Борисла́в(戦い бор- +栄光 слава)の省略形と考えている。これに対して、非スラヴ系の学者はテュルク系の «あだ名» ボゴリス Bogoris(«小さい» という意)から来たと考えるようだ。歴史的にこのイーミャを名乗った最初の人物はブルガリア王ボリス1世だが、もともとブルガリアの支配層ブルガール人はテュルク系民族だった。ボリス1世の子供たちのイーミャ(ヴラディミル、シメオン)を見ても、この頃からようやくブルガール人がスラヴ化、キリスト教化されていった様子が窺える。そのような状況を考えてみると、スラヴ系、テュルク系どちらの可能性もありそうに思える。
 いずれにせよ、現実にはブルガリアとロシア以外ではほとんどお目にかからないイーミャだった。ロシアでは、聖ボリースの影響もあり、ゴドゥノーフやパステルナーク、エリツィンなど、このイーミャを持つ偉人も多数いる。
 ただ、特に近年ドイツを中心に多少このイーミャを名乗る人がいるようだ。往年の名テニス・プレイヤーなどは有名だ。また、ポルシェ Porsche というのはボリースの派生形がドイツ語で訛ったものである。
 女性形はない。
 愛称形にはボーリャ Бо́ря などがある。
 5/15, 8/6, 10/15。
マクシーム Макси́м
語源はラテン語の maximus(最大・最強)。数多くの聖者のイーミャであるのだが、なぜか西欧では一般的ではない。せいぜいフランス語のマクシーム Maxime とイタリア語のマッシーモ Massimo ぐらいだろうか。他方でロシアでは非常にポピュラーである。言うまでもなく、ゴーリキイのイーミャ(もっとも本名ではない)。
 女性形はあるにはあるが、古来ほとんど使われてきていないようだ。
 愛称形はマクシームカ Макси́мка、マークシャ Ма́кся、マクシュータ Максю́та、マクシューシャ Максю́ша、マーカ Ма́ка、シーマ Си́ма。
 1/26, 1/29, 1/31, 2/3, 2/19, 3/4, 3/19, 4/2, 4/23, 5/11, 5/13, 5/27, 8/12, 8/24, 8/26, 9/2, 9/18, 9/28, 10/8, 10/22, 11/5, 11/10, 11/12, 11/24, 12/5, 12/19。
 「Со всеми Максим, и Аксинья с ним.」
マトヴェーイ Матве́й
古代ユダヤ人の男性名マッタティヤフ Mattathyah から。語源は古代ヘブライ語の mattath(贈り物)+ yah(ヤハウェ)。省略形 Matthiyah がギリシャ語で Matthias となり、古スラヴ語で Матфи́й となって、現在の形にいたった。
 オリジナルの十二使徒のひとりとして、ユダが抜けた後を埋めた追加の使徒として、また福音書の作者として3人が知られている。にもかかわらず、さほどこのイーミャは一般的ではない。マシュー Matthew(英語)、マティウ Mathieu(フランス語)、マテーウス Matthäus(ドイツ語)、マッテーオ Matteo(イタリア語)、マッツ Mats(スウェーデン語)、マッティ Matti(フィンランド語)など。
 女性形はない。
 愛称形はマーテャ Ма́тя、モーテャ Мо́тя など。
 4/25, 7/13, 8/22, 10/11, 10/18, 11/29。
 「Худ Матвей, не умеет потчевать гостей. お客をもてなせないマトヴェーイが悪い」
 「На Святого Матвея земля потеет. 聖マタイのために大地が汗を流す」
マールク Ма́рк
ローマ人の男性名マルクス Marcus から。語源は不詳。古代ローマの神マルス Mars との関連がしばしば言われるが、はっきりしない。
 言うまでもなく使徒マルコ。おかげで全ヨーロッパ的にポピュラーである。日本でも『母を訪ねて三千里』の主人公として有名。と言うか、それ以前にアントニウスとかポーロとかトウェインとか(本名ではないが)いたっけ。ロシアではシャガール?(ロシア人ではないが)
 女性形は事実上存在しない。
 愛称形は、マルクーハ Марку́ха、マルクーシャ Марку́ша/Марку́ся、マーシャ Ма́ся、マルトゥーシャ Марту́ся、トゥーシャ Ту́ся、マーラ Ма́ра、マーカ Ма́ка。
 1/11, 1/15, 1/17, 1/27, 2/1, 2/23, 3/18, 3/23, 4/11, 4/18, 5/8, 5/27, 6/18, 7/16, 7/17, 8/24, 10/10, 10/11, 10/20, 11/9, 11/12, 12/7, 12/31。
ミハイール Михаи́л
古代ユダヤ人の男性名(?)ミカエル Mikhael から。語源は古代ヘブライ語の mikha- + el(主)。
 天使の中でも特に名高い大天使のイーミャとしてポピュラーである。マイクル Michael(英語)、ミシェル Michel(フランス語)、ミヒャエル Michael(ドイツ語)、ミゲル Miguel(スペイン語)等々。ビートルズが歌ったのは、Michelle、フランス語の女性形。
 ロシアでも昔から人気があり、王侯貴族(ロマーノフ家にも多数のミハイールがいた)のほか、レールモントフ、ロモノーソフ、そしてクトゥーゾフなどがこのイーミャの持ち主である。
 ロシア語に女性形はない。
 愛称形の中ではミーシャ Ми́ша が一番ポピュラーだ。
 1/24, 2/27, 3/23, 3/27, 4/29, 5/15, 6/3, 6/5, 6/28, 7/12, 7/16, 7/17, 7/25, 8/11, 9/19, 10/3, 10/13, 10/14, 10/15, 11/21, 12/5, 12/31。
 「У Михайлы хайло что твои звонкие трубы.」
 「Наш Мишка не берёт лишка. うちのミハイールは残りを取ったりしない」
 「Ни Миша ни Гриша. ミハイールでもグリゴーリイでもない」
ムスティスラーフ Мстисла́в
語源は古スラヴ語の мстити(復讐)+ слава(栄光)。あまたある «〜スラーフ» というスラヴ系イーミャのひとつ。
 統一時代最後のキエフ大公のイーミャで知られているが、おそらくこんにち的にはケルドィシュかロストロポーヴィチか(世界的な知名度は圧倒的に後者だろうが)。
 女性形はムスティスラーヴァ Мстисла́ва。
 愛称形はムスティーシャ Мсти́ша、スティーヴァ Сти́ва、スラーヴァ Сла́ва。
ヤーコフ Я́ков
古代ユダヤ人の男性名ヤアコブ Yaaqobh から。語源は古代ヘブライ語の Ya(ヤハウェ)+ qob(護る)。しかし旧約聖書で aqeb(かかと)や aqab(簒奪する)と関連づけられており、本来の語源は忘れられているようだ。
 イサクの子、イスラエル12支族の祖として有名。また使徒にもこのイーミャの持ち主がふたりいた。ラテン語でヤコブス Jacobus がヤコムス Jacomus と訛ったため、ジェイムズ James(英語)、ハイメ Jaime(スペイン語)、ジャコモ Giacomo(イタリア語)など、b の音が m に転訛した形が西欧ではかなり広まっている。
 女性形はない。
 ヤーシャ Я́ша あたりが愛称形としては一般的だろうか。
 1/17, 1/26, 2/11, 3/12, 3/17, 4/3, 4/6, 4/13, 4/17, 4/21, 4/23, 4/24, 5/4, 5/13, 5/18, 5/27, 6/4, 6/5, 6/12, 6/26, 7/7, 7/13, 8/22, 9/12, 10/15, 10/22, 10/23, 11/3, 11/5, 11/14, 12/9, 12/10。
 「Рад Яков, что пирог с маком. ピローグにケシが入っていてヤーコフは上機嫌」
 「Ну, Яшка, плоха твоя замашка. おい、ヤーコフ、お前の態度はなってない」
 「От Якова недалеко до всякого. ヤーコフからはあらゆるものが近くにある(直訳)」
 「Бывает добро, да не всякому, как Якову. ヤーコフのようにいいことはあるが、誰にでもというわけではない」
ヤロスラーフ Яросла́в
語源は古スラヴ語の яр-(明るさ)+ слава(栄光)。あまたある «〜スラーフ» というスラヴ系イーミャのひとつ。ただし最初の要素は春の神ヤリーロ Яри́ло とも共通し(当然だ、語源が同じなのだから)、このイーミャは同時に «ヤリーロの栄光»、«栄光あるヤリーロ» という意味合いも持っていたものと考えられている。
 そんな異教的要素丸出しのイーミャでありながら生き残っていられるのは、何と言ってもヤロスラーフ賢公のおかげだろう。
 女性形はヤロスラーヴァ Яросла́ва。
 愛称形はヤロスラーフカ Яросла́вка、スラーヴァ Сла́ва、スラヴーニャ Славу́ня、スラヴーシャ Славу́ся、ローシャ Ро́ся。
ユーリイ Ю́рий
エゴールを参照のこと。
 ゲオールギイでもエゴールでもなくユーリイをポピュラーにしたのは、やはりユーリイ・ドルゴルーキイの存在だろう。こんにちでもガガーリンのイーミャとして知られている。
 女性形はユーリヤ Ю́рия となるが、まず使われることはない(女性名ユーリヤを参照のこと)。
 愛称形はユーラ Ю́ра が一般的。
 2/17, 3/17。
ルスラーン Русла́н
ルスラーンというイーミャの初見はさほど古くはない。エルスラーン Ерусла́н という形は17世紀頃にできた民間伝説に登場する。これはテュルク系の男性名アルスラーン Arslan から。語源はテュルク系言語の arslan(獅子)。このイーミャは、たとえばセルジューク・トルコのクルチ・アルスラーンで有名。
 ロシアでは何よりも、エルスラーン・ザラザーロヴィチから発展したルスラーン・ラーザレヴィチの伝説が有名。それだけに、どちらかと言うと古臭いというような印象を持っているロシア人が多いように思うのだが、どうだろう。それでもこの名の持ち主は多いし、近年でも新生児につけられるイーミャの上位50位ぐらいには入っているようだ。
 女性形は一応あるにはある。
 愛称形はルスラーンカ Русла́нка、ルーシャ Ру́ся、ラーナ Ла́на など。
レオニード Леони́д
古代ギリシャ人の男性名レオニダス Leonidas から。語源は古代ギリシャ語の leon(獅子)。後半ははっきりしないが、イデア idea から、という説もある。
 スパルタ王のイーミャとして知られている。が、ロシア以外でこのイーミャが使われた例を見たことがない。
 女性形レオニーダ Леони́да はまず使われない。
 愛称形はレーニャ Ле́ня 辺りが一般的だろうか。
 3/23, 4/28, 4/29, 6/9, 6/18, 7/30, 8/21, 9/12, 9/15, 9/28。
レーフ Ле́в
古代ギリシャ人の男性名レオン Leon から。語源は古代ギリシャ語の leon(獅子)。
 レオンというイーミャはリュック・ベッソンの映画で一躍有名になった感があるが、あまりヨーロッパではポピュラーではないように思われる。なお、ロシア語にもレオーン Лео́н というイーミャはあるが、レーフとは別のイーミャと認識されている(一般的にはほとんど使われない)。«レオン・トルストイ» だとか «レオン・トロツキー» だとかいう表記を時々見かけるが、間違い。両者ともに本名はレフである。
 女性形はない。
 愛称形はリョーヴァ Лёва が最もポピュラーだろう。
 1/12, 2/2, 3/3, 3/5, 3/13, 5/31, 7/14, 8/31, 9/24, 11/25, 12/20。
 「У Лёвки всё ловко. レーフは何でもうまくいく」
ロスティスラーフ Ростисла́в
語源は古スラヴ語の рости(成長)+ слава(栄光)。あまたある «〜スラーフ» というスラヴ系イーミャのひとつ。ただしこれは、あるいはスタニスラーフ同様外国から輸入されたイーミャと言うべきかもしれない。リューリクよりも早く、中欧モラヴィア王国にロスティスラフ Rostislav という王さまがおり、これが文献上このイーミャの初出となる。このロスティスラフは、コンスタンティノープルから聖キュリロスと聖メトディオスを招いた張本人である。
 女性形はロスティスラーヴァ Ростисла́ва。
 愛称形は、ロスティスラーフカ Ростисла́вка、ローステャ Ро́стя、ロステャーナ Ростя́на、ローシャ Ро́ся、ローテャ Ро́тя、スラーヴァ Сла́ва、スラヴーニャ Славу́ня、スラヴーシャ Славу́ся。
 3/27。
ロマーン Рома́н
ローマ人の男性名ロマヌス Romanus から。語源は言うまでもなくローマ。
 なぜか西欧ではさほど一般的ではなく、このイーミャの持ち主はフランスの作家ぐらいしか思い浮かばない(『黒い瞳』でマストロヤンニが演じていたイタリア人もロマーノと言ったっけ)。逆に東欧では一般的で、アメリカに亡命したポーランド人映画監督もいた(もっとも本名は違う)。ロシアでポピュラーなのは、聖ボリースの洗礼名がロマーンであったのが一因。
 女性形は使われることはない。
 愛称形にはロマーシャ Рома́ша とかローマ Ро́ма などがある。
 1/18, 2/11, 2/16, 3/2, 3/29, 5/15, 6/5, 6/13, 8/1, 8/6, 8/11, 8/15, 8/23, 9/24, 10/8, 10/14, 11/13, 12/1, 12/10。
 「Худ Роман, коли пуст карман. ポケットが空ならロマーンも痩せっぽち」
 「Приехал к торгу Роман, привёз денег полон карман. ロマーンが商売にやって来た。ポケット一杯の金を持って」
 「Не надейся, Роман, на чужой карман. ロマーンよ、他人のポケットを当てにするな」

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最終更新日 17 01 2013

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